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"土井半助はズルい"
そう摂津のきり丸は思う。
優しくて包容力のある若い素敵な先生とかいう外聞があることはわかる。確かにそれは否定しない。先生は確かに優しいしお人好しだし悪い点数しかとらない俺らを絶対見捨てない良い先生だ。
だけれども、土井半助をズルいと思うのは、土井半助が忍者であり、また自分が彼をカッコイいとかそんな風にたまに想ったり、うっかり何故かドキドキしちゃったりしてるわけで、つまり自分は、多分もしかしら、おそらく、土井半助に惚れているのかもしれない。
(先生は親でもないし兄弟でもない)
(先生は先生でしかないけど)
(俺にとって、特別な先生で)
(先生って言葉だけじゃ、言い表せない)
この関係をなんと呼ぶべきか以前からわからなくて、先生は「私たちは家族同然だろう?」だなんて優しく笑って頭を撫でる。俺はそれが凄く気恥ずかしくて嬉しい、だけどそれでは満足出来なくて・・・。
「きり丸?何だ、また眠れないのか?」
夜中につい目が冴えてしまって、縁側で考えていると、どうやら見回りか用をたすためなんなのかわからないが、自分が今しがた考えていた人がきた。もしかしたら先生は自分がこうしているのに気づいてきたのかもしれない、そんな都合のいい考えがふとよぎり、そんな都合のいいことは世の中ないんだという現実的な自分が覆す。
先生が「また眠れない」というのは、俺が夜、夢とかで、たまに、あの辛い思い出が蘇ってきたり、似たような悪夢を見てしまうからで、そんな自分が俺は弱くてやだなといつも思うが、ついつい眠れずにいるのを先生は知っている。
(そう、先生は俺の弱みというか色々知っちゃってるんだ)
(だけど俺は、先生のこと全然実は知らなくて)
「先生はズルいです」
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いなくなったら許しませんからね