血?名誉?家柄?
Get lost! (消え失せろ!)
月明かりすら入らない隠し部屋。俺はそこで荷物を纏めた。持って行くものはやはり少なくて、全部学校の物か、くだらない発明品。ありったけの金だけは一応手にとって、本日家出を決行する。
この家ともついにおさらば。厳しく堅くてヒステリックな母上とも、純血に取り付かれた悪魔ともおさらばするわけだ。本当に清々する。 幼い頃は怒る母上に笑わない父上に笑ってほしくて、精一杯言われた通りにしてきた。俺はとても優秀で、母上は「流石ブラック家の息子だわ」とけして俺自身ではなく俺の生まれを誉める。父上は俺に期待して将来のブラック家の跡継ぎとしてしか俺を見ない。
唯一俺だけを見てくれたのはホグワーツに入って出会った友達だけだった。紅の汽車に揺られる中出会った初めての友達が、生粋の獅子寮のポッター家とわかった時、俺はどんなにショックだったろうか。だがしかし、組み分け帽子に最終的に血を裏切り獅子寮と選ばれた時、どんなに嬉しかったか。今も、そしてこれからもけして忘れはしないだろう。
「兄さん。」
いつの間に知ったのか。俺の隠れ家の入り口の壁をたたく音がする。弟だ。 弟。レギュラスは大人しい奴だ。幼い頃はなにも言わず金魚のフンみたいに俺の後ろについてまわるし、まあ自分もそれなりに弟が可愛かったので何もいわなかった。が、だんだんとレギュラスは生意気になってきたのか俺に口答えするし、屋敷しもべ妖精なんかを大切にするので俺は弟がわからなかった。レギュラスも同じなのか、獅子寮に入った俺に少なからず敬遠したし、だんだんとそれからは話さなくなっていった。兄弟だなんてそんなものだと思う。
「行くの?」 「ああ」 「帰ってこない?」 「ああ」 「そっか」
壁越しの会話。いつ知られたのか、弟には俺が出て行くことがわかっていたらしい。曖昧な沈黙。それに俺は、レギュラスとまともな会話ができるのは最後になるかも知れないと感じだ。
「・・・・元気でな。」 「・・・兄さんこそ。後悔しても遅いからね」 「まさか。お前こそ家出したくなっても知らないぞ。」 「僕は兄さんみたくなれないし、ならない。」
弟は俺より期待されなかったし、俺より何事に関しても劣っていると扱われた。きっと俺のことは嫌いなんだと思う。やな兄貴だと思う。
. 「じゃあな。」 「行ってらっしゃい。」
願わくば、長生きをしてほしい。
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