マフラー
※十忍十色伍の巻の無配ペーパーに載せた富浦(現パロ)です。
手が冷たい。息を吹きかけてなんとか暖めようと励むが、たまに吹いてくる風が温かい湿り気を一瞬で凍りつける。
浦風藤内、大川学園の中学一年A組の彼は、学園からの帰り道、コートから出る白く冷たくなった指先を握りしめた。
(手袋・・・欲しいな)
生憎手持ちの手袋はすでに自分の手よりも小さくなってしまった。
「あ、藤内!」
後ろから声がかかり、藤内は振り向くと、隣のクラス、B組の富松作兵衛だった。彼は帽子を被り暖かそうなダッフルコートにマフラーを着込み手袋をした手をふって、隣まできた。
「作兵衛、お前防寒完璧だな・・・」
「そうか?もう12月になるしな〜それに今日は雨もこれから降るらしいから寒くなるって思ってな。」
「そういう準備は良いよな。今日の数学、教科書忘れた癖に・・・」
「ははは、悪ぃって・・・」
渇いた笑いを漏らした作兵衛に、藤内は羨ましげに暖かそうな彼を見上げた。そして最近徐々・・いや顕著に出てきた身長差に藤内はなんだか苛々した。
富松作兵衛と同じクラスの次屋三之助などは元々小学生の時から背が高いから別に気にもならないが(勿論羨ましく思うが)、自分と元々ほぼ同じくらいの身長であった作兵衛に追い抜かれて、しかも段々と、自分よりも確実に男らしい顔つきになってきてる彼を見ると、置いて行かれそうな気がするのと、なんだか時々ドキドキしてしまうのだ。
「寒そうだな」
藤内の細い手が白く冷たくなっていることに気がついた作兵衛は彼の手を突然持ち上げた。
「ぅわっ」
「冷たっ。」
手袋を片方外して藤内の素肌に触った作兵衛はあまりの冷たさに驚いた。逆に藤内は突然触れられたことに驚いて頬に血がのぼる。
「お前、手袋ないのかよ?」
「もう小さくなって・・・」
「風邪ひくだろ?それに上着だってブレザーだけじゃ、そりゃ寒いだろ」
「煩いなぁ。仕方ないじゃないか!」
「うーん、じゃあとりあえずマフラー」
作兵衛は自分のマフラーをとり、藤内の首に巻いた。
「なっ」
「ちょっとはマシだろ?」
そう笑って、作兵衛は藤内の手をまたとり、暖めようとした。
「俺、左門とかよりは手あったかい方じゃねえけど、藤内の手は冷たいなぁ」
「・・・・」
藤内はその作兵衛のとっている行為が恥ずかしく感じられて、頬を赤くして作兵衛のマフラーに顔をうずめた。
(そうだ、B組のやつらこういうこと普通にするんだよな・・・こっちの気もしらないで)
そんな藤内を疑問に思った作兵衛は藤内の顔を見て、自分のやってることが結構恥ずかしいことに気づき、手を握ったまま、お互い顔を赤くした。
「・・・ええと・・・」
なんだか気まずい空気が流れ、沈黙に二人の頭が動転した。そんなとき、ポツリと頭上に水が落ちた。雨が降ってきたのだ。
「あ、傘ない」
「俺持ってるぞ、入れよ」
そのまま藤内は作兵衛の傘に入り、先程の気まずい空気を忘れるようになんとか談笑して家についたが、そのあと自分達が相合い傘をしていた事に気づき、また顔が赤くなって急いで帰った。
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返し忘れたマフラーをじっと見つめた。