紙飛行機の秘密(留三郎と伊作)
0点のテスト用紙を紙飛行機にして屋上から飛ばすなんてこと、どこかの解散したフォークミュージシャンの曲の中だけだ。
高校生になれば何か変わるなんてこともなく気づいたらもうすぐ受験だとか、目まぐるしく過ぎてゆく日々はテスト漬け勉強大会。
「はぁ…」
やってしまったのだ。とんでもない点数だ。目前に突き刺さる0という数字に胃痛がした気がした。数2の打ち抜きテスト。期末や実テではないだけマシかもしれないが、理系を選択しようとしている俺にとっては不安要素しかないことで、珍しく落ち込んでいた。
元々頭はよくない方だった、小学生の頃から体育だけが成績のいい典型的なガキンチョだ。自分のライバル的存在である現在生徒会長の潮江文次郎がいたため、幼い頃から努力して奴の頭のよさに追いつこうと努力したが、天賦の才とやらはなかなか味方してくれず、劣等感を根付かせたまま今に至る。馬鹿でもいいじゃないか、とも思うが、社会の仕組みとやらの点数至上主義とやらは、今の俺を苦しめる。勿論潮江よりも自分が優れている点もあるわけだから、奴とのライバル関係についてはこの際どうでもいい。もうあの頃のようにただの対抗意識や嫉妬、つまらないプライドごときではどうにもできない現実があるとを、18になった俺は知ってしまったから。
「あ」
屋上で握りしめていた0点テスト用紙が宙を舞った。突然の強風だ。あの恥ずかしいテストをだれかに見られるかもしれないと、急いで落ちたと思う場所にかけよった。
「あ、これ君の?」
やっちまった。と愕然とした。そこにいたのはついこの間同じクラスに転校してきた善法寺伊作という高3にもなっていじめられっこの奴だ。あまり関わるのはよそうと思っていたのに、自分より弱いと思っていた人間に弱味を握られてしまった。
「笑っちゃうね。僕も0点なんだよ」
今日のテストさ。そう笑った彼に、俺は先程考えていた暗い感情を全て一掃された。なんだか懐かしい気がしたんだ。
0点のテスト用紙を紙飛行機にして青空に飛ばした。
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「お前も理系なのか!?」
「うん、一応医者志望で」
「医者ぁ?!」
何事も諦めない誠実さに、圧倒され、惹かれて、いつの間にかいつも、一緒にいた。