はじまりをくれた(土井ときり丸)


 なかなか開かない踏切を越え、絡み合うように配線が上空で絡み合う住宅街を進み、猫がよくいる小道を横切ると、坂がある。
その坂を登る途中に石の階段がある。そこを登り細い小道を横に抜けるとある古びたアパート。そこが今の俺の家だ。アパートの大家さんはとても優しそうな風貌をしており、実際いい人だ。俺の事情を知り、家賃を元よりかなり安くしてくれたのだ。

…それもこれも。この大家さんの昔っからの知り合いである、このアパートの隣の部屋に住んでる血の繋がらない保護者のお陰なんだけど。



俺は摂津きり丸。今時珍しい姓名をしている。親はいない。6才の時に交通事故であの世逝き。それまで無愛想な俺は親戚の家を転々として施設にいた。そして、高校生になってやっと一人暮らし出来ている。ただし、隣の部屋に面倒な先生…保護者がいるんだけど。

先生は25歳独身、小学校教師。俺の遠縁から話をきいて、中三の時に突然俺の前に現れて、一人で暮らしてみないかとその時の保護者達の邪魔者になっていた俺のちょうどいい取引先になった。勿論、その話は俺にとっては嬉しい話で、感謝している。
高校の授業料、引っ越し代、他諸々生活必需品を買い揃えてくれた。まぁ、このアパート、なかなか古くて、下水が臭かったり…そうそう、一番の欠陥はなんとガスが俺の部屋、使えないのだ。だからIHでなんとかしてるし、お風呂はわざわざ先生の所を借りている。たまに銭湯ってのもありだ。
そんな、結構な欠点もあるけど…大家さんはたまに美味しいおかずを差し入れしてくれるし、家賃もかなり安いし、悪くない。



「先生は、どうして俺にこんなにしてくれるんです」



ふと、家に残業を持ち帰っては小学生のテストの採点相手に本気で頭を唸らせ食べることを忘れやすい先生に、俺はよくご飯を作ってあげる。その夜もそうして、安あがりのスープとごはんを先生と食べてる時、訊いてみた。なかなか聞けないことをなんとなく。



「似たような育ち方、してるからかな」



暫くの間、何か思案した先生は、笑顔でそう答えた。その言葉は、いつかどこかで聞いたことがある気がして、俺はその夜から、変な夢をみた。俺と先生は生まれるずっと前から、一緒にいたんだと。














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今まで息をしていなかった誰かが、息をしはじめた







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