紫衣がヒラリヒラリ






 ぷすり、とふっくらとした柔らかな頬に長い指が刺さる。木漏れ日の中、船を漕いでいた浦風藤内はビクリと肩を震わせ、瞼を見開く。

「綾部先輩」

なにをしてらっしゃるんですか。と眉間にすこし皺を寄せ、自らの背後から屈み込む一つ上の先輩の顔を睨んだ。小鼻は小さく、だが高さのある、筋の通る鼻筋。切れ長の眉の下に、揺れる長い睫毛。少し前ならば、この先輩の整った綺麗な顔を、直視出来なかった。けれど、付き合いも三年にもなれば、少しは見慣れる。

「藤内の藤は、藤の花?」
「そうですね」

でも、お話をする前にその指を離して下さい。と浦風藤内はさらに睨みをきかす。それは何も効果を得ずに、目の前の顔色を変えない先輩は大きな瞳をパチクリと見開き閉じ見開き…にっこりと笑った。

「ほら藤内、プレゼントだよ」

やっとこさ、長い指は頬から離れたのだが、藤内はそれどころじゃなかったので、それに気付かなかった。にっこりと無垢に笑う先輩を間近で直視してしまったのだ。胸の奥がドクリと跳ねて、跳ねて、こうべを振って平静を取り戻そうとした。

「そんなに嬉しいの?嬉しいな」

そんな、頬を赤く染めて慌てた藤内を見て、綾部喜八郎は的を外した認識をして、また笑い、藤内の頭を撫でる。
藤の花の香りが鼻孔にかすみ、やっと、先輩の手に藤の花が一房、握られているのに気がついた。

「どこでこんなもの見つけてきたんですか?」
「向こうの山の先だよ。沢山咲いていた」
「へぇ」

藤の花は鮮やかだが和らい色をし、指先に絡む。「ありがとうこざいます」と、目を細め、優しく、先輩から藤の花を受け取る。
そんな藤内の姿に、綾部は見とれた。

「この子は明日には枯れてしまうでしょうね」

ぼそりと、口から出てきた言葉はそんな言葉で。藤内は後から後悔した。
花びら開ききり、水も供給されないその花は、明日には枯れてしまうだろう。生け花にするにしても、藤の花は都合が悪い。
そんなこと、当然のことで、わざわざ口に出すことではないのに。

「藤内は枯れないよ?」

ピシャリと聴覚を突き刺す声は、いつものかみあわない言葉で、藤内はいつもの調子に戻れた。

「あのですねぇ、先輩っ…」
「この子も枯れない」
「何言ってるんですか!」

そんなはずないでしょう。と藤内は呆れた声を出そうとしたが、目の前に長い指をもつ手が人差し指を立てて近づき、視線の先に、視線が飛び込む。

「押し花」

ああ…、なるほど。と、うまく回りにくい頭の片隅で納得している間に、ふわりと、土と花の香りがする、紫色の温もりに、包まれた。












藤色の昼下がり
























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藤の香りが鼻をつついてくすぐったい








一周年記念リクエスト
≫しおさま
大変遅くなりました…!!本当に申し訳ない遅さですね。勿論これらはしおさんに限りお持ち帰りご自由に煮るなり焼くなり返品も承ります(笑)
私の中の綾部と浦風は、やはり浦風が綾部に翻弄されているようで、綾部は浦風のちょっと予想外の反応に感動を覚えているんじゃないかな、と。2人の会話や様子をずっと眺めていたいです。
私もしおさんのまるくて暖かくでもリアルな感情を感じとれる作品が大好きです!もうファンなんですからね!絵茶是非しましょう!リクエスト本当にありがとうございました!今後ともよろしくお願いします!







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テーマ「人外ファンタジー」
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