思考回路は君だらけ


 ふわりと靡いた髪が鼻孔をくすぐる。あぁ、この香は…違いない。通常なら有り得ない判断もここでならできる。
すがるように、その瑠璃と漆黒が調和した大きな瞳に雫を溜めて、自分の身体に絡みついてくる肢体。片口に身を寄せて、名前を耳元で囁けば、色付いた頬の紅が深まる。
 
(幸せというのは、こういうことをいうんではないだろうか)
 
そんな浮かれた考えが浮かんですぐに、現実に引き戻された。まぁ単に、寝返りを打ったら堅い床。ちょうどいい所で!と腹が立ったが、すぐにそれがとても恥ずかしい事だと気付くのに寸分もいらなかった。
あの容姿、肉体、なんということだ。間違いない。同じ学友の男ではないか。
 
「嘘だろう?」
 
こんな夢を見るということは、だ。いくら妄想癖のある自身でも、その答えは、そういうことで…。
 
「マジか…」
 
ふと冷静になり思い返せば、すれ違い様ふわりと癖っ毛の艶髪の香に気が上昇したり、常日頃目で追うことも、見つめることもしていた。意識してしまえばしまう程、それは極端に自然さを失わせ、彼本人に訝しまれるまでに至ってしまった。



寝具の温もりに身を委ね後は眠るだけ、いつもならものの寸分で夢の世界へと旅立てるのにどういうことだろう。苛々と眉間に薄皺を寄せて最近隣のクラスの学友の態度に舌打ちした。何なんだいったい。
 
赤味がかった髪を跳ねさせ元気よく毎日同室の世話のかかる迷子や後輩の面倒をみる忙しい彼に、少しは休む時間をとおやつの誘いをしようと、彼の部屋に行けば、そそくさと逃げられるし。別の用事…宿題の相談をしに夕食時話しかけようとして、目があったのに慌てて逸らされた。他にもここ数日幾度か妙に避けられたりしている気がしてならない。一体僕が何をしたというのだ。
つたーと、気づいたら頬に滴が伝って、初めてこんなにも悲しいことはないと気付いた。
隣で眠る同室の友に気付かれないよう、嗚咽を押し殺して、彼の事を考え続ける。どうしたら振り向いてくれるのだろう?今まで通り、いやもっと、もっと親しくなりたいと思っていたのに拒絶をされているようで、ただ、悲しくて。
 
感情を押し殺そうか。なんて案が浮かんだが、不器用な自分は、きっと押し殺す前にみんなにバレてしまうだろう。こんな激しい感情を。特に、隣で眠る友には。なら、どうすればいい。当たって砕ける?そんなのする勇気があるとは思えない。僕の劣等感は、そんな生易しいものではないのだ。例え人一倍努力しても、報われないことがあると、僕は知っている。それでも僕が努力するのは、ひとえにそれにすがることしかできないからなのだ。
 
結局、悶々と堂々巡りをし続け、あまり眠れなかった。明日の僕が酷い顔をしているのは避けられないだろう。
 
 
 
眩しい太陽が上り、今日は晴れるだろうと学園の皆は意気揚々と朝餉までの準備をとりかかる中、富松作兵衛はここ最近頭から離れない人物が、酷く疲れきった顔をしていることに気づいて、驚き余り、意識していることも忘れ声をかけた。

「どうしたんだ?眠れなかったのか?」

あのどんなに夜更かしして勉強しようとしても健康児の浦風藤内は必ず寝落ちする、そんな藤内が会計委員会でもないのに隈を作っているのは、大変驚くべき事象だったのだ。
もっとも、藤内からしてみれば、その有り得ない事象を引き起こしている根本原因に心配されても、腹が立つとしかいえない。

「別に、作兵衛には関係のないことだろ」

つきんと胸に痛みが走ったが、勢いのまま冷たく言い放つ。そんな藤内に作兵衛は酷く傷ついた。だが、持ち前の負けん気で、彼がこんな風に眠れなかった原因を知ろうと問答を続ければ続けるほど、浦風藤内の瞳が潤んだ。

「作兵衛の馬鹿!」

口でも勝てなかった藤内は、思わず頬をはたき、走り去り。その場に赤い手形を頬に付け呆然とした富松作兵衛だけだった。


そんなようにこじれた2人に、学友達は溜め息を吐いてある者は馬鹿らしいと降参の手をあげる者、いつも通り仲のいい喧嘩だと笑う者、いい加減にしてよねと苦笑いをする者と皆結局は元鞘に早く戻れと祈る。

そんな皆の願いをよそに、妄想癖の激しいネガティブな思考を展開しはじめた富松作兵衛に、実は朝の様子を見て、委員会活動中も思考の旅をする彼に舌打ちをした用具委員長が「きちんと追いかけて、話し合いをするんだ」解決するまで委員会活動を休めと、強制休暇を出されてしまった。早く解決しなければ。作兵衛は意を決して駆け出した。


「なぁ藤内。俺は確かに馬鹿だけど、心配なんだ」
「作兵衛は狡い。狡いよ。自分だって心配されてることに気付けよ。」
「ごめん。悪かった。俺、なんかしたか?」
「…っ!馬鹿。作兵衛が先に無視したんじゃないか」
「え?あっ!それは…無視じゃなくてだな」
「じゃあ何だって言うんだよ」
「………」
「………」
「藤内がその…」

髪よりも真っ赤になって……告げた




.
結局お互いがお互いの事考えてただけ








一周年記念リクエスト
≫抹茶さま
リクエストありがとうございます!そして大変遅くなり申し訳ございません。
富浦…とまと大好きなのに最近なかなか書けていなくてリクエスト感謝します。自分のとまと、こそこそのろのろとサイト経営をしてとまともに書けていませんが抹茶さんのお言葉本当に励みになります!本当にありがたい!今後とも何かリクエスト(遅くてもよければ)及び質問等ありましたらいつでもお気軽にコメントを頂けたら嬉しいです。これからもlapiusをよろしくお願いします。







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