次富池(by瑞樹さま)


偶々だったんだ。そう、本当に偶々。
三年生の長屋の前を通ると忙しそうに縄を肩に担いだあいつが居たんだ。今日も迷子探しお疲れ様です、と嫌味を言うだけのつもりだったんだ。本当。予定では今頃自分の部屋に戻って図書室から借りて来た本を読んでいる予定だったんだ。
それなのに………。
「おい!しっかり腹から声出しやがれ!」
「っ!出してる!!」
「もっと大声で!」
「っ………神崎先ぱああああああい!次屋先ああああああああい!どこですかああああああああ!!」
「はい、その調子で」
畜生!何で俺が……俺が!!こいつの手伝いをしなくちゃいけないんだ!それも迷子探し!いつもこいつ一人でやってるって言うのに、たまたまだぜ?たまたま!三年長屋の前を通っただけなのに、何故か縄を肩に担いだ背負ったこいつに捕まった。有無を言わせず腕を掴まれ学園のすぐ後ろにある、よく実習などで使う森へと連れてこられた。そして一言「探すぞ」とだけ。何を、と聞くまでもなかった。迷子だろ?どうせ授業が終わったと同時に教室を飛び出して行った迷子を捜せってんだろ?!俺は関係ないっていうのに強制的に連れてこられた。何?日頃の恨みをここで晴らそうってか?………恨みがあるとしたら俺の方だけど。だっていつもいつも保健室送りにされるわ、何着制服を駄目にしたことか…!全部こいつの所為だ!……そりゃ手加減してないってのは分かるけどよ……嬉しいけど…手加減されないってことはあれだろ?平等ってことだろ?後輩として扱われてないのは問題外だけど、この場合いいや。………違う違う。今はそんなことじゃなくて、何でこいつの手伝いをしなくちゃならないんだって話!
「おい!富松!」
「何だよクソ池田」
「何で俺があんたの手伝いしなきゃなんねぇんだよ!」
「はぁ?何でってお前暇そうじゃん」
「あのね、俺も一応いそ」
「あ、お前そっち宜しく」
「え?!あ、おい!!」
………置いて行かれた。置いてと言うか、………うん。置いて行かれた。瞬き一つしただけなのに、一瞬で目の前から消えて行った。…一歳しか違わないっていうのに……。
「……ちっ」
悔しいと、久々に認めてやる。たった一年なのに………。
………イッソ、帰ってやろうか。そう思った。思うのが普通だろう?強制的に連れてこられたと思えば迷子探しを手伝えと有無を聞かれずに言われたのだから。でも帰れなかった。帰ってやってもよかったんだ、本当に。だけど………そう。あいつに借りを作っておくのもいいかなと思ったんだ。何かあればそれを使えばいいのだから。ただそれだけなんだ。
そう決めたは良いが、迷子探しなどやったことがないと言うのにどう探せというのだろうか。そっち、と指を指された先は比較的見晴らしのいい林の中だった。あいつが行った方は多分…逆に視界が悪い森の中。変な所で後輩扱いされるのが面白くなかったと言えば面白くなかったが、今はありがたいと言えばありがたい。だって迷子探し初心者なんだから。
きっとその迷子たちも森の方に居るんだろうし、一通り探してここで待っていればいいんだろ?
そう思い林の方へと足を踏み出した。
――ガサッ‥
何かが草原で動く音が聞こえた。…まさか野生の熊だろうか?それだったらさっさと逃げよう。本気で。それとも招かざるナニか、だろうか。それはそれで嫌だな。一応忍者の卵の二年生なわけだし。そういうのは関わりたくないのが本音だ。…もしもの時は仕方ないとして。どちらかと言えば前者の動物の方が嬉しい。
――ガサッ‥ガサッ‥
ビシッと小枝だろうか、それが折れる音が聞こえた。ヒトなら音は立てない。つまり前者が正解ってことか。それじゃ逃げる準備でもするかな。
「あれ?さっきまで作ちゃんが居たと思ったんだけど」
逃げようと草原に背中を向けていると聞き慣れたくない声が聞こえて来た。それもあいつの気配が分かったらしく、自分から来た…らしい。この人本当に迷子なわけ?ワザとじゃねぇの?
「げ…池田じゃん。何でお前が居んの?ストーカー?」
「時代錯誤の事言わないでください。俺は富松……先輩に、無理矢理あんたたち迷子を探せって連れてこられたんです」
「へぇー。どうでもいいや」
………これだから三年は!一個しか違わないって言うのに何でこんなに態度でかいんだよ!あーもう!ムカつく!!
「とにかく動かないでください!」
「はぁ?何でお前に命令されなきゃなんねぇの?」
「っ!あんたが動くとこっちがまた探さなきゃなんないでしょ!」
「お前も作兵衛みたいなこと言うんだな?左門じゃないんだから俺は迷子にならないって」
「それ本気で言ってんですか?!あんた立派な迷子ですから!」
「いやいや。迷子じゃないって。第一俺が迷子だとして……どうやってここまで来たと思ってるわけ?」
にやり。……そしてゾワッと背筋に違和感を感じた。そういえば俺、この先輩苦手…というか、嫌いに近い。普段は恍けてるくせにあいつが居ないと変に挑発的だし、睨みつけるように見られる。実際は睨まれてないんだけど……それでも嫌な感じしかしなかった。
背中に流れる変な汗が気持ち悪い。その気持ち悪いさを我慢して、この人…次屋先輩に対し口を開いた。
「偶々じゃないんですか?それにさっき、富松先輩も先輩の名前叫んでましたからそれが聞こえたとか」
「………ふぅん。お前結構いい根性してんじゃん?」
「先輩には負けますよ」
「二年のくせに口だけは達者だな、お前」
「お陰さまで」
「うわー…俺お前嫌いだわ。前からだけど」
「奇遇ですね。俺も先輩のこと嫌いですよ。結構前から」
殺されるかもしれないとも思った。その程度の殺気が立っていた。俺も何でこの人にここまで口を利けるのか分からなかったが、引けなかった。引いたら負けると思った。
「いつまでも作兵衛がお前に構うと思うなよ」
「なに言って」
「見つけた!!っの馬鹿野郎っ!!」
「さぶへっ」
………消えた。…何を言っているか分からないだろうが、消えたんだ。俺の視界から。誰がって今さっきまで殺気を出していた次屋先輩が。何故消えたのか。それはさっきの声の主が飛び蹴りをして飛んで行ったからだ。人の体ってあんなに簡単に飛ぶもんなのか…。へぇ……。
「てめっ!何で俺が呼んでも出てこねぇんだ!」
「い、痛いですっ…ちょ、作ちゃん!痛いっ!」
「少しは反省しろ!」
地面に倒れている次屋先輩をあいつは容赦なく蹴り飛ばしていた。よくあんなこと出来るよな、と人事のように見ていた。………うん。俺、このままの扱いでいいや。平等なんてものじゃなくていい。不平等で十分だ。



END







「あ、池田」
次屋先輩を蹴って気が済んだのか、良い笑顔のあいつがこっちを向いた。何だ?次は俺ってか?逃げようか?
「ありがとな!」
「………は?」
思わず間の抜けた声を出してしまった。だってこいつ、今何て言った?「ありがとう」とか言った?言ったよな?俺に向かって。え?何?空耳?
「だからありがとうって」
空耳じゃなかったらしい。
「…別にこれくらい」
「次は左門の方な!」
「………え?」
「左門だってば。神崎左門。あいつもその辺に居るから探しといてくれ。俺はひとまずこいつを届けて来るから」
「なっ?!はぁ?!」
「じゃ宜しく!」
さすが用具委員会…同級生を片手で引きずれるとは………って違う!はぁ?!何で俺がっ………!
やっぱり三年は嫌いだ!!!大嫌い!!!!!



END




















ななめ45度の木村さ…いやこちらでは瑞樹さんに無理いっていただいてきちゃいましたー!(`フ´//)<ふへへ!
池田と次屋のやりとりがかなり、かなりたまらなく…^^
池田くんは富松に喜ばれると無意識で嬉しいからなんやかんや手伝うんだけど次屋はそれがきにいらないとry私の次→富←池萌につきあってもらえてほんと嬉しいです´v`いつか合同本をご一緒するのが楽しみです!


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