思春期[富藤](byりださま)



秋の穏やかな陽射しを浴びながら、隣を向けば君が居る。
ふたりで歩く田圃の畦道、アキアカネが案山子にとまって羽なんか休めてたり


きっとこういうのを"穏やかな時"て言うのだろうなぁ──


なぁんて呆けてたら小石に躓いた。




「お前なぁ……いい加減笑うのやめろよ」

秋とはいえ残暑厳しいこの季節、お目当ての団子屋に着くなり、とりあえず水を頼んで卓に落ち着けども、目の前に座る君は笑いをとめる素振りも見せず…ただただ笑っている。

「だって…ぼけーっと歩いてたと思えば突然「アキアカネじゃん」とか呟いて次の瞬間小石に躓いてこけたんだぞ?これを笑わずにいつ笑えと?」

いや、いやいやいや…確かにそうだが…好いてる相手の前でスッころんだ俺の羞恥心とかプライドとか傷付いちゃってるんっそろそろ本気にやめて……ああ、注文をとりに来たお姉さんまで笑ってるし……とりあえず、団子2人前ください、はい。




「しかし、意外だな。作兵衛がこういう店知ってるなんて」

団子がくるまでの間、それとなく店内を見渡しては、あの書は誰の作だろう?だとか、あそこ飾ってある掛け軸いいなぁ〜だとか…到底俺なんかが気付きもしない所で一喜一憂する姿を見ると、本当に俺でいいのか…と不安になる。

この店だって、今日の為にしんべヱから教えて貰った場所で、普段三之助達と行くような峠の茶店とは雰囲気が全然違う。

客だって、どことなく品の良さが漂う奴らばかりで…なんだか俺だけが取り残されているような……


「お待たせ致しました」


嫌な思考の渦に片足を突っ込んで、危うく奥底まで沈む所を団子に救われるとは思わなかった。

香ばしい甘辛い醤油の香りが鼻孔を擽る。






夕暮れ時、太陽を背に学園への帰路につく。

地面にはゆらゆらと2人分の影が仲良くくっついているのに、現実の俺達の間には少しだけ距離感を感じた。

物理的には触れられる程の距離なのに。



あのお団子屋につくまでは、普通だった…と思うのだけど、やっぱり俺が作兵衛が転けたことを、笑ったりなんかしたから?

だから、少し元気が無いのだろうか…ただ俺は──


「なぁ、藤内」

「な、なんだ?作兵衛」


考え事をしている時に話し掛けられれば誰だって驚くし、反応が鈍る。

だが作兵衛は、そんな事など気にもとめずただ前だけを見据えてポツリと呟いた。


「今度は…もっと美味い団子屋に連れて行ってやるよ」


いつもの峠の茶店に。
確かに、藤内にとっては今日行った団子屋みたいな所が好ましいのだと思うが…やっぱり俺は駄目だ。

それに、藤内には等身大の俺を好きでいてほしいから、な。


「…うん、楽しみにしてる」
「おう…─」


俺も、作兵衛が本当に選んだ所に行きたいから…人から教わった場所ではなくてね。




ふふふと意味ありげに微笑めば、ふいっとそっぽを向かれてしまった。

その耳が赤いのは、夕日のせいではないよね?








「あ、あと…俺がスッ転んだことだけどよ─」

「誰にも言わないさ」

「え?」

「俺だけが知ってる作兵衛だし、誰かに教えるなんて勿体無い」

「そ、うか…」




俺は、みんなが知らない作兵衛に会えたことが、どうしようもなく嬉しかっただけなんだから。

笑いすぎたことは、うん…やっぱり謝らないでおこう。














2010.9.24


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くじらのしっぽのりださんよりキリリクで頂いたものです(^///^)富浦!たまらん!

りださんの文章は世界観というか雰囲気が出てて、2人の和やかなデートにきゅんとしました。余裕のない富松が本当可愛い・・・ていうか藤内の最後の「俺だけが知っている作兵衛」て堂々という藤内に思わず惚れそうでした。やっぱり藤内は真性のイケメンだと思うんですよね!そして富松の必死に藤内にアタックするのがいいですはい。まあつまり富浦が大好きということですね。
りださんの藤内は凄く清楚というか、高貴というか、いいとこの子として描かれていて、私はたまらない萌ポイントだと思います。高貴な浦風と庶民な富松!

キリリクおいしく頂きました(^^)ありがとうございました〜



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