涼野女体化注意




俺と涼野はかれこれもう2年半以上付き合っているが、そういった行為をしたことはまだ一度も無かった。

ついこの間、流れでヒロトやリュウジとそういう話になったとき、まだだいうことがバレてしまった。
そこで初めてそれが変だと知った。

変とは言い過ぎかもしれないが、彼女ができたら半年以内にすることが殆どらしい。早い人なら一週間とか付き合い始めたその日とかに。
確かに2年おあずけは長いよなーとは思っていたが、周りがそんなに早いとは思っていなかったので驚いた。

これから涼野と別れる気もないし、ちょっとやそっとの喧嘩ぐらいで手放す気もなかったから「まぁいつかは」ぐらいに気長に構えていたのがいけなかったのか。

もちろん俺だって男だ。ヤリたいと思う時なんて日常で山ほどある。
やましい気持ちで涼野を俺の部屋にあげたこともあったし、じゃれあっていたらそんな雰囲気になったこともあった。

でも、今までつついていた膝辺りからほんの数センチ、ほんのちょっと、かろうじて太腿と呼べるぐらいの所に触れただけで涼野は一気に全身カチコチに緊張させて身構えるのだ。
そんなあからさまに怖がっているようなリアクションをとられたら、誰だって「冗談だ」って笑ってごまかして逃げるしかないじゃないか。

まぁ確かに残念ではあるが、それでも良いと思っていた。
周りがどうとかは関係ないし、何より涼野が嫌がるようなことを無理にしたいとは思えなかった。


困ったのはその後だ。
割り切った。と自分で思ってもやっぱりそのことばっかり考えてしまう。
「まだしていない」ことが頭の片隅に残り、ついつい制服のスカートから少しだけ見える太腿とか、風になびいた髪の毛の隙間から見えるうなじとかに目が行ってしまって焦った。

さらに困った事に俺はびびりだ。
外出先などでふとした時や一緒に話している時にむらむらして、今日こそちゃんと誘ってみようと思うのだが、いざ部屋の中で二人っきりとなるともうダメになってしまう。

「セックスさせてくれ」なんて口が裂けても言えないし、かといって無理矢理押し倒してそのまましてしまうような度胸も無い。いや、「もう押し倒してしまえば」なんて思った勇気ある俺も居ないわけじゃない。しかしそうなるのは決まって家に誰か居てやれない時なのだ。
一人で慰めるネタも、ヒロトたちのせいですっかり涼野の身体オンリーになってしまった。
なんでアイツは俺の彼女なのにこんな虚しいことをしなきゃならねんだと、事が済むと大概憂鬱な気分になっていた。

俺は必死に理性を働かせているというのに涼野はそんなことは露知らず、いつもは殆どズボンの癖に珍しくデートにミニスカートを履いてきたり、デートの最中も腕に擦り寄ってきたりで、そりゃあもう嬉しいが、今の俺は
目の前で餌をチラつかされてる犬と同じ状況な訳だからかなり辛かった。



そんな悶々とした日が続き、今日。ものすごい雨が降った。
俗にいう通り雨、ゲリラ豪雨というやつで、サッサと帰ってきて良かったと二階から窓の外を眺めながらボンヤリと考えていた。
ホームシェアをしてるヒロトからは、『雨ひどいから、今日はリュウジの家に泊まるね」というメールが届いた。

窓を閉めようと思ったら道路の水を跳ねさせならが走っている制服姿の女の子がいて、傘持ってなかったんだろうななんて思ってよくよく見たら、先ほど一緒に学校から帰った筈の涼野だった。

「おい!涼野!!」

「!」

雨音で掻き消されてしまうかと思ったが幸い声は届き、涼野は上を見上げる。

「ちょっと待ってろ!」

そう叫んで一階に降り玄関を開けると、正に濡れ鼠という言葉が相応しいような涼野がいた。
とりあえず玄関に招き入れる。


「お前なんでこんな雨の中出歩いてんだ。傘もなしに・・・。」

「違うよ。晴矢と帰ってきた後にノートを学校に忘れたの気付いて・・・。明日提出の課題があったから取りにいったらこの通り。」

「バカお前、普通止むまでまってるだろうが!」

「待ったよ充分!でも一向に止む気配無いから出たんだよ。私だって好き好んでこんなずぶ濡れなんかに・・・」

バカと言われて不機嫌そうに叫んだ涼野は、びしょ濡れのブレザーを脱ぎはじめた。
ブレザーの中まで水は浸透しており、ワイシャツがぴったりと涼野の身体に張り付いていた。
そのせいで下着がうっすらと透けていたが本人は気付いてないようだ。

顔が熱くなるのと同時に涼野の身体が震えているのが分かった。
無理もない、もうすぐ冬になるこの時期に頭からずぶ濡れになったら寒いに決まっている。


「そ、その・・・とりあえずあがれよ、ホラ!」

「え?いいよ悪いし。床ビショビショになっちゃうよ」

「そんなの良いって今誰もいねーから。お前の家まで結構あるだろ?風邪ひくとまずいし雨宿りしてけって!」


涼野を多少強引に風呂場に押し込んだ後、ココアでも飲ませてやろうと思い台所に立った。
聞こえる雨音からして、まだ暫く止みそうにない。
雨の音に混じって風呂場からシャワーの水音が聞こえてくると、「今涼野は裸なんだ」と当たり前すぎることで脳内が支配されてしまい、未だに中学生みたいな自分の思考回路が嫌になった。



「あぁ・・・温まった。こんなものまでわざわざありがとう」

猫舌な為、ちょっとずづちょっとずつココアを舐めるように飲む涼野を見てるとつい口元が緩んでしまう。
貸した俺のワイシャツが、涼野にはかなりだぶだぶなのも可愛らしい。

気付いた涼野が「ニヤニヤするな!」と赤面しながらクッションを放ってきた。以前このことについてからかったことがあるので、自分が何故笑われてるか分かっているのだ。
普通に可愛いと思っているだけなのに照れ屋なヤツめ。



「君の言葉に甘えといて良かったよ。あれからもっと降りが酷くなってるし・・・。寒い家に帰ってそれからお風呂沸かしていたら、それこそ君の言う通り風邪引いてたと思う」

「だろ?俺はいつだって正しいんだよ」

「調子乗りすぎ。はぁ、でもどうしよう。せっかく温まったのにまたぐしょ濡れにはなりたくないし・・・止むまではまだまだかかりそうだし」

「なんなら泊まってっても良いんだぜ?明日学校休みだし困らねーだろ」

笑いながら涼野に近づいて肩を抱くと、風呂上がりのため肌も髪の毛もしっとりとしていて、自分から手を出しておきながら思わずドキッとした。

「・・・・・いいの?」

「・・・・・へぁ!?お、おう!」


冗談で言ったつもりだったので思わず間抜けな声が出る。
いつもだったら「アホ言うな」と睨まれるか、さっきみたいにクッションか何かを放られるのに。


「ひ、ヒロトのやつも今日はリュウジん家に泊まるみてーだし・・・お前が嫌じゃないなら・・・」

「変なことしないって約束するなら泊まる」

「し、しねーよバカ!」


涼野が自分から泊まりたがるなんてもしかして、と思ったが、ものの2、3秒で打ち砕かれた。
その点については残念だったが、一晩涼野とずっと一緒にいれるなんて嬉しくてしかたがなかった。
いつもより長く喋っていられるし、寝顔なんかも見れてしまうかもしれない。
後ろから抱きつくぐらいなら『変なこと』には含まれないだろう。


それからはいつも通り、くだらないバラエティ番組を見て二人で笑ったり、黙って雑誌を読んだり、ゲームで対戦をして「今のズルい」とか涼野に文句を言われたりしてた。
いつもと違うのは涼野が帰る時間を気にしないこと。
二人でインスタントラーメンを作ろうとしたはいいが、二人ともぼんやりしていて茹ですぎてしまい、おまえのせいだ、いやおまえだと笑いながら柔らかくなりすぎたラーメンに卵を落とした。
グチャグチャでクソ不味いはずなのに、何故か美味く感じた。


楽しい時間と言うのは本当にあっと言う間に過ぎてしまうもので、気付けばもうすぐ11時になろうとしていた。
テレビも涼野好みのは終わってしまい、やっていたホラー映画を見ようとしたら怖がりの涼野が消してしまったので、少し早いがもう寝ることにした。


「俺、ヒロトの部屋で寝るから俺のベット使えよ。昨日シーツ替えたばっかだから汚くはない・・・はずだから」

「え、私一人で寝るの・・・?」

「は!?い、一緒に寝るつもりだったのかよ」

「慣れない部屋で一人で寝るのはちょっと、不安と言うか・・・」


なるほど。先ほどチラッとみたホラー映画の影響か。
布団の上にまたがりうめき声をあげる女の幽霊。
俺にとっては陳腐すぎてむしろ笑えたが、ホラーが苦手な上に場所がいつもの自分の部屋じゃないのなら怖さが倍増するのかもしれない。
結局俺の部屋に普段は使ってない布団を敷いて同じ部屋で眠ることになった。


電気を消して布団に入ると、さっきまでの軽い眠気は吹っ飛んでしまった。
時計の音がやけに鮮明に聞こえ、たまにもそもそと動く涼野の音が耳に残る。

そこでふと、ふざけて触った涼野のしめった肌の感触と思い出し、カッと身体が熱くなった。
どうするか、一回トイレに行って抜いといた方が良いかもしれない。

布団から起き上がろうとすると、急に涼野が喋り出した。

「なあ晴矢。おまえは私のことが好きなんだよな」

「え、あぁそうだけど・・・どうしたいきなり」

「私のどういうところが好きだ」

「いきなりんなこと言われてもだなぁ・・・顔も好きだし、性格も、」

「身体には興味は無いのか」



思わず布団から飛び退いたら後ろの本棚の角に頭をぶつけた。

「な、なに、何言って!?」

ふざけているのかと思ったが、涼野の顔は暗闇でも分かる程紅潮しており、冗談ではないことが分かった。


「だって、もう二年以上になるのに・・・何もしてこないから・・・」


自分から「変なことしないなら泊まる」とか言っていたくせに、何を口走っているんだコイツは。
そもそも、俺が何回かそういう方向に持っていこうとしたら明らかに嫌がっていたじゃないか。
そのようなことを吃りながら言うと、

「え、私ヤダだなんて言ったことあった・・・?」

言ってたろ!と思ったが、よくよく考えたらそんなことはない。
俺が嫌がっていると判断してやめただけだ。

「そう言えばそうハッキリ言ったことはねぇかも・・・けどお前怖がってただろ。俺がちょっと触ってただけで」

「それは緊張していただけで、嫌だなんて一度も」

そう言いかけて涼野は口ごもる。『一度も言ってない』と言えばそれつまり、『抱かれてもいいと思っていた』ということになる。
気まずそうに目をそらす涼野を見て、もう無理だなと感じた。



「つまりよ、俺に身体触られたり、それ以上のことされたりしても嫌じゃない、ってことか」


涼野は何も言わずにフイと後ろを向いた。表情は読み取れないが耳まで真っ赤だった。


「あーもう、なんでもっと早く言わねんだよ・・・俺がどんだけ我慢してたと思ってんだ」

「だってそんなの恥ずかしいし、もし本当に南雲が私に興味無かったら、と思ったら怖くて」

「俺はそんなにプラトニックでもストイックでもねーよ」


そう言いながらベットの上にあがって涼野に顔を近づけながら、ワイシャツのボタンに手をかけた。




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