私はピアスとかタトゥーとかが嫌いだ。
わざわざ痛い思いをして自分の体に痕を残してまでオシャレに凝る奴らの気持ちがわからない。

最近はスプリットタンなんてものもあるらしい。
ちょっとだけ興味を持ってやり方を調べてみたら、少しずつ裂くだのメスで一気にやるだの想像するだけで口の中が痛くなるようなことばかりだったので読むのをやめた。

確かに、若くて綺麗な女性がやっている写真はなかなか色っぽいと思ったが、勘違いしてるバカ男なんかがやっているとただ気持ち悪いというか出来損ないの妖怪か何かにしか見えなかった。


私と晴矢は意見が食い違うことが多かったけど、晴矢もそういうオシャレはやりたがっていなかった。理由は少し違ったが。

「ピアスとかかっけーし、耳ぐらいには入れてみたいけど痛いのはヤだからな」

病院行って高い金払ってまでわざわざ開けたくもねぇな、とアクセサリーの雑誌を読みながら私の方を見ずに言っていた。
そう言ってたときはまだ晴矢はあの女と付き合っていた。

向こうから告白してきたらしく、派手でケバケバした文字通りの「ギャル」だった。
いつも晴矢の二の腕にまとわりついていて、一応彼氏なのに晴矢はうっとうしそうだった。


嫌なら別れれば良いのに。晴矢にもその女にも腹が立って私は何の気無しに軽い嫌がらせをした。
その女とのデートの前日、もちろん私はデートの予定が入ってるのを知っていたけど何も知らない振りをして、映画のチケット手に入ったから明日一緒に観に行こうと晴矢を誘った。

前から晴矢が観たがってた映画だし、計画としては気まずそうに口惜しそうに私の誘いを断る晴矢を見て満足するつもりだった。
普通彼女とのデートの予定が入っていたらよっぽどのことが無い限り断らない、しかもいつも顔を合わせる男の誘いなんて。映画はヒロトか誰かを誘って観に行けばいいやと。


「おおコレ!気になってたんだよなー。んじゃ明日何時に家出る?」

「え、暇、なの?・・・明日?」

「おう?暇だけど?」


デートは中止になったのかと思ったけど、晴矢が風呂に入ってる時にきたメールには明日着ていく服がどうこう書いてあるあの女からのもので戸惑った。


なぜ晴矢がデートを断ったのかよく分からなかったし、そんなに映画が見たかったなら彼女と行けば良かったのにとか色々考えたけど、結局その次の日晴矢と映画を観に行った。


それから一週間ぐらいたって、晴矢はその女と別れた。
私は部屋の外に追い出され、リビングから酷い金切り声が聞こえて焦ったけど、急に晴矢の妙に落ち着いた声が聞こえたかと思うと女が泣きながら飛び出してきてそのまま家から出て行った。

リビングに入るとバツの悪そうな顔、と思いきや、晴矢はスッキリした顔で笑っていた。

「ヒス女は嫌いだってつったら泣いてやんのあいつ!あーぁもっと早く別れてもよかったな」






テーブルの上に置かれた小さい光るものをつまんだ。


「何これ」

「見りゃわかんだろ、ピアスだよピアス」

そんなのは分かる。でも晴矢は痛いから嫌だと言っていたのに今更。

「店で一目惚れした。いや、捨て犬見ちゃったと言った方がいいかな・・・」


晴矢曰くショーケースの隅っこに追いやられているこのピアスを見付けた際に、もうすぐ仕舞い込まれて誰にも付けてもらえなくなるのかと思いつい衝動的に買ってしまったらしい。
デザインはありきたりで、特別ダサい訳でもないが今風のものではなかった。

晴矢は右手でカシャカシャバネの音と共にホッチキスみたいな何かを弄っていた。
針が行ったり来たりする姿をみて昔の拷問器具にあんなのあった気がするなと思った。



「痛そうだね。まぁ頑張って」

「まだ付けるって決めてねーだろ」

「・・・・は?じゃあ何の為にそんなものまで買ったの」

「これはピアス初めてっつったら店のねーちゃんがサービスしてくれたんだよ。ピアスってさ、片方は気合いで何とかなりそうじゃん?何も考えずにやればさ。でも問題はもう片方だよな、痛いの分かってるからビビってできなくなりそうだ


「私がやってあげようか」

「冗談よせよ、お前がやるとなんか耳たぶごと裂けそうで怖いわ」




結局そのあとは予想通り。
いつまでも動かないので私は自室に戻り本を読んでいたが騒がしいので戻ってみると、
何とか踏ん切りがついたらしいが、案の定いてえいてえ言いならか何十分も台所で耳を冷やしていた。


「あーくそあの店員、何が痛くないだよ。騙しやがって」


ある程度落ち着いたのか、ぶつぶつと文句を良いながらリビングに戻ってきたが、もう片方も開ける気はないらしくポイとソファにホッチキスみたいなのを放った。



「あーあやっぱりやらなきゃ良かった。片耳だけ開いてるとかカッコ悪すぎだけど・・・もう一回あんな思いするぐらいならこのままでいいわ。」

「もう片方のピアスはいらないの?」

「あ?もう片方と言うか、もう付ける気ないから・・・あ、何ならおまえと俺で1個ずつ付けるか?男同士で恋人ピアス!ははは気持ちわりぃ!」



嫌に決まってるでしょ。そう言おうと思ったのに、何故か脳裏にあの女が携帯に付けていた人形が浮かんだ。
晴矢とお揃いの変なキャラクターのキーホルダー。
晴矢は嫌がってたけど彼氏だからと無理矢理付けさせられていたもの。

女と別れた後はいつのまにかゴミ箱の中に入っていた。
結局晴矢にとってお前はその程度なんだよ、ってゴミ箱の中のあいつを嘲笑ったけど、いつか自分もこうなる時があるのかもと思って背筋が冷たくなった一ヶ月ぐらい前のことを思い出した。




「いいよ」

「え?」

「それかして?半分私が付けるよ」

「は!?・・・お前ピアスとか嫌いって言ってなかったか?しかもコレけっこういてぇぞ?」

「うんいい。晴矢がやってよ」



晴矢は腑に落ちないような顔をしていたが、しばらくすると後悔しても知らないからな〜と機嫌良く準備し出した。





これなら、簡単には取れない。すぐには捨てられない。お揃いの。






耳元で響く安いバネの音が心地よかった。





2011/09/23
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