リクエストよりバーン×メイドガゼル♀


大きなテーブル、高価な食器、豪華な食材。
立ち尽くしながら私はそれらぼんやりと眺める。
豪華な食事の風景ではあるが、別に食欲は沸かない。ああいうのよりは質素な家庭料理の方が私は好きだ。
だが食欲が沸かないのはそれよりもテーブルの中央付近に座っている男のせいであろう。
ナイフとフォークを上品に使いこなしながら食事をし、時折笑いながら側にいる人間と何か話している。

猫被りやがってこのクズ野郎!

大声で怒鳴りたくなったがそれらの言葉をグッと飲み込み、俯いて自分のつま先と大理石の床を眺める。
私はこの大きな屋敷の使用人をしている。俗にいうメイドというやつだ。
この屋敷には金持ちの夫婦が住んでおり、あの男、バーンはその夫婦の息子だ。
しかし血は繋がってなく、子宝に恵まれない夫婦が養子として引き取った子供らしい。
私は1年程前にこの職場に付いた上、あの男と同じくらいの年齢なので当然そんなことは知らず、年長の者から聞かされたことだ。
この男、頭が良い上に武術、馬術にも長け、なにより顔が良い。
なので若いメイドの間ではちょっと騒がれる。
この私ですら屋敷の庭で馬を乗り回している所に出くわした時には思わず見蕩れてしまった。

しかし、そんな風にメイドの間でもてはやされるのも本性を知るまでの短い間である。
バーンはそれらの長所をぜんぶ打ち消す程に性格が悪かった。
つまり夫婦の居る前では良い子を演じているのだ。

少しでも機嫌が悪いと使用人に当たり散らす。
後継者として日々の生活を送るのはそりゃ大変なんだろうが、あまりにも酷かった。
殴る蹴るは当たり前、可愛い子にはセクハラを働き、掃除した直後にわざと絨毯にコーヒーをぶちまけたり皿を運んでいる執事の足をひっかけたり…。
どうしてそんな子供っぽいイタズラ類まで許しておくのか私には理解出来なかった。
メイドも執事も皆、できるだけあの男に目を付けられないように愛想を振りまいていた。

彼が私に気付いたのは私が廊下の掃除をしていた時だった。
バーンは私の目の前で脇に飾ってあった花瓶を掴み、中の水と花をばらまいて言った。

「あぁ、悪いね。汚しちゃったから掃除やり直しといて」
「そこからどいてもらえますか。掃除の邪魔です」
「……は?」
「邪魔だと言ってるんだ。わからないのか」

そう言って睨みつけてやった。
てっきり怒鳴られるかと思ったが、バーンはポカンと口を開けたまま私を暫く見つめて、そのまま何も言わずに立ち去って行った。
奥様に言いつけられるかなぁと思ったが、昼食の時もお茶の時も何も変わった事はなかった。
なんだ奴でも反省する時はするのかと思ったが、それは大きな間違いだった。

その日、夕食が終わった後にバーンは私の肩に手を置き、さもたまたま側に居たメイドに声をかけたかのように言った。

「君、名前は?」
「…ガゼルと申します」
「じゃあガゼル、ちょっと疲れたんで食後のお茶は部屋で飲みたいんだ。運んでくれるかな」
「承知しました」

ああ、部屋でじっくり虐めるだったのか。まぁいいさ殴るなりなんなりするがいい。
なんて当時の私は呑気に思ってたが、その夜、暴力よりも拷問よりももっとおぞましいことをされた。
『その夜』というのは適切では無い。正しくは『その夜からずっと』だ。
仕事を辞める事も考えたが、親も金も無い私に行く当てなどあるわけなかった。

最悪の日々の始まり。そう思ったが良い事も少しはあったそうだ。
バーンの興味が私に向いた事によって他の使用人が虐められることがかなり減ったらしい。
…ふざけるなと言いたい。




頭を上げ視線を戻すとどうやら夕食が済んだらしい。
主人夫婦はまだお茶を飲んでいるが、バーンは立ち上がり自室に戻ろうとしていた。
気付かれる前に厨房に戻ろうと私はまわれ右をしたがわざわざ名指しで呼ばれたのでそれは叶わなかった。

「あーガゼル、後で部屋に来てくれ。さっきグラスひっくり返してシーツを汚してしまったから取り替えてほしい」
「…はい。かしこまりました」

今日もまたこいつに好き勝手されなきゃならないのか。
恐らく、いや絶対シーツを汚したというのは嘘だろう。
何かと理由をつけて私を呼び出しては遊ぶのだ。

何度か同じ事を繰り返されれば私も学ぶ。
奴に対しての抵抗は無駄。寧ろ喜ばれてしまう。
口汚く罵ることもぎゃあぎゃあ喚く事も同じ。面白がってさらに図に乗る。

つまりできるだけ無反応でいるのが一番良いのだ。
そうすれば抵抗するよりは早く終わる…気がする。


食器の片付けの仕事が終わった後に、シーツを持って(0.01%の本当にシーツを汚した可能性のために一応持った)バーンの部屋に向かう。
ノックをすると返事の変わりに中から腕が伸びてきて引きずりこまれた。
これにももう慣れっこだ。

「おせーよ。待ちくたびれたっつの」
「シーツのどこが汚れてるというんだ」
「何言ってんだ。替えのシーツは必要だろ?これから汚すんだから」

にやあといやらしく笑って、バーンは私を思いっきり突き飛ばした。

「!?」

ベットに尻餅をついた私は立ち上がる暇もなくバーンに覆いかぶされて両手を掴まれる。私が彼の身体を押し返さないようにするためだ。
そのまま口を塞がれてすぐに舌を入れられる。
熱い舌に口腔をかき回されると思わず声が出そうになった。

「んっ…く、」

できることなら思いっきり噛み付いてやりたいところだが、顔に少しでも傷が付いたらあの母親役が見逃す訳が無い。
何があったのか散々問いつめるであろう。
まぁメイドに無理矢理キスしたら噛まれた、とは流石のコイツも言わないだろうが出来るだけ自分の立場に危機が及ぶことはしたくない。

「お前も舌出せよ」
「……」
「わかってんだろ?逃げらんねぇことぐらい。されることは一緒なんだからさ、どうせならアンタも楽しんだ方が良いと思うんだけどなぁ」

言いたい事は山ほどあるが我慢して、ふいと目を逸らす。

「まぁ、そういうところが面白くて好きなんだけどな。他の女は俺に気に入られようとヘコヘコしてばっかでつまんねえ」

そう言ってもう一度口付けし、唇の周りをペロペロ舐めたりして遊び始める。
さっさと終わらせてほしくて、私は緩んでいた手を振りほどき自分で胸のボタンを外し始めた。

「今日は積極的なんだな」
「されることは一緒だと今自分で言ったろう。はやくしてくれ」
「つまんねーなぁ、『すること一緒』なんだからもっと雰囲気出そうぜ」

唇から首、鎖骨と舌をぬるりと這わされる。そして強く吸われて痕を付けられた。
コイツのせいで私の首周りは赤い痕だらけだ。虫さされで誤魔化すにも無理がある。

「これだけ付けたら他のメイドにバレちまうかもな」
「そんなのとっくだ」
「ふーん…」

自分で言った割には興味無さそうに呟いて、胸を舐めながら遠慮なくスカートの中に手を突っ込んできた。

「っ…」

ここからが大変だ。
前は声を我慢する私をどうにか鳴かせようと叩いたり闇雲に突き上げたりしていたが、そんなことをするよりも優しく丁寧に愛撫した方が私が折れやすいことに気付いてしまった様だ。
これについては本当に参っている。
痛みよりも我慢することが難しいし、何よりこの憎くてしかたがない男によって快楽を感じてしまっている自分が死ぬほど嫌になるからだ。

長い中指が奥の方入ってきて、指の腹で確かめるように色んな所をぐにぐにと押される。
弱い所を強く引っ掻かれて身体がビクンと跳ねた。声を出さなくてもこれだけ明確に反応してしまったら意味が無いかもしれない。
バーンは指を二本に増やすとそこを執拗に責めだした。

「ふっ…く、」

シーツを握りしめて必死に耐える。
我慢はするものの快楽は容赦なく私の身体に溜まってくる。
このまま私が達するまで続けるのだろうか。そう思っていたらふいに指が引き抜かれた。
ビックリして見ると、バーンはすでに堅くなった自身を私にあてがっていた。

「ちょ、ちょっとま、」
「待たねーよ」

ズッ、といきなり奥まで押し広げられて息が詰まる。

「ーーーーっ!?あっ、あぁ、あ!」
「あーあ、声我慢してたんじゃないのか?」

ぐち、ぐちゅ、と湿った音が部屋に響く。わざと音が鳴るように動かしているのだろう。
でもその水音は間違いなく私から出ているもので…そう考えると耳を塞ぎたくなった。
バーンは私の心境などまったく無視して何度も突いてくる。

「アンタすごいな、たいして慣らしてもいないのにもう奥まで簡単に入る」
「ひっ…、っ」

シーツを掴んだり指をくわえたりしてみるが、唇の隙間から漏れる悲鳴が抑えられない。

「最初こそ暴れてたけどさ、2回目からもうあんあんだらしなく喘ぎやがって。もしかしてアンタ、ここに来る前はそのテの店に居たとか?」

カッと頭に血が上って思わず睨みつける。バーンはそれを見てとても楽しそうに口端を歪めた。

「あーそれはないか。処女だったもんな」

「好きでもない男に処女奪われて、毎晩のように犯されるのってどういう気分だ?まぁアンタも辞めたくても辞められないんだろうけど。そんならいっそのことさ」

そう言うとバーンは私の両肩を強く掴み、すっと顔を寄せてきた。

「俺の女になっちまえよ。そうしたらきっとキモチイイ、ぜ?」

耳の側で気持ち悪いくらい優しく囁かれる。熱い息がかかって全身が痺れる様だった。

「だ、誰がっ…!」
「そうそう、そうこなくっちゃなぁ。簡単に落ちてもらっちゃつまんねぇからな」

まるで私がこう返すのをわかっててあえて言ったかのようにバーンは軽やかに笑った。
クソ、結局私が何をしようとこの男の思う壷なのか。
悔しくて頭を叩いてやろうと思ったが、身体に力が入らなくて私の手は真っ赤髪の毛を擦っただけだった。
無反応でコイツを飽きさせてやろうと思ったのに、いつの間にか自分から身体を捩ってしまっている。
そんな自分が嫌で嫌で、両腕で自分の顔を覆った。

「く、…あっ、はあっ」
「なに?もうイきそうなのか?さすがだな。この淫乱」
「ちが、ちがう…あっあ、ーーっ!!」

弱い所を思いっきり抉られて身体が弓なりになる。
気付いた時には必死にバーンにしがみついて達していた。

「あ、ぁ…」
「別に何回イッてもいいけどさ、俺が満足するまではやめねぇからバテんなよ?」


その後、バーンの気が済むまでさんざん弄ばれ、私は何度も絶頂させられた。
終わった時にはもうとっくに日付は超えていた。
身体が怠くて動きたくないがこのままこの男と裸でいる訳にも行かないのでベッドから出る。
立ち上がると中に出されたものがドロリと降りてきて気持ち悪かった。

「帰っちゃうのか?一緒に風呂でも入ろうぜ」
「けっこう…です」
「遠慮すんなよ。そのまま帰っても他の使用人に迷惑だぜ。精液臭くて」
「貴様のものだろクズ」
「ははは」

スッキリして機嫌が良くなったコイツは明るく話す好青年といった感じで、いつもこうだったら使用人に慕われる良い主人だったろうにと溜息をつく。
そして私はその素敵な主人に目を付けられた運の良いメイドだったのに。

「こんな夜中に部屋から出てくと怪しい。風呂入ったらそのまま寝ちまえ」
「朝に奥様がいらしたら…」
「俺もそういう年齢だからセックスの勉強してたって言うさ」

冗談なのは分かるが、あの女ならこんな嘘でも真に受けそうで怖いなと思う。

風呂に連れられながら大きな背中に問いかける。

「いつまでこんなことを続けるおつもりですか」
「あんたが俺に好きになるまでかな」
「でも私本気になったらもう興味なんてないんでしょう?」
「よくわかってんじゃん」

もう暫くはこの酷い主人に付き合わなくてはならなそうだ。私は再び深く息を吐いた。




2012/08/18
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