【リクエストより、付き合っているけど片思い】



暗い夜道を二人で歩く。少しバイトが長引いたせいか、いつもより人通りが少ない気がする。


「それでさ、」
「・・・・・」

歩きながら南雲が楽しそうに何か話しているが、私の耳には半分くらいしか入ってこない。
私は今、南雲晴矢と付き合っている。

高校にいたときは存在は知っていたものの、お互い会話もしたことなかった。
しかし同じ大学に通い始め、周りが殆ど知らない人間で埋め尽くされると、共に居る時間が多くなった。
自分が寂しがりやだとは思わないが、やはり誰も知り合いがいないのは少し不安だった。
それは南雲も同じらしく、顔だけでも知っている相手とつるみたかったのだろう。

なんとなく、一緒に食事をとったり、バイトをしたり、勉強したりしているだけ。
ただの友達。そう思っていた。少なくとも私の方は。

「俺さ、お前の事好きみたいだ。恋愛的な意味で」
「は・・・・?」
「冗談じゃないからな」


そんなことを言われた日には、もう、本当に吃驚した。
今までこの男はそういう目で私の事を見ていたのか。
少し気持ち悪くもあり、嬉しくもあり、複雑な心境にみまわれたのを覚えている。
断ろうと思った。
しかし、ここで断るとこれからのバイトや大学で顔を合わせるのが気まずくなる。

どうしたらいいものか・・・迷い言葉を失っている私に彼はこんなことを言った。

「付き合う、だけでいい」
「どういう意味・・・?」
「今すぐ愛してくれとは言わねえよ。今まで通り。それに+αでいいって言ってんの」

その言葉に、私はつい首を縦に振ってしまったのだ。

彼の言う通りだった。私の生活は特になにも変わらない。
いつも通り大学に行き、バイトに行く生活。その中で+α。
求められれば唇を貸し、家に呼ばれれば大人しく横になっている。それだけだった。
面倒臭さはあるものの、それだけで彼との関係を保っていられるなら良いと思った。


正直、私は南雲が好きなのかよくわからない。
おそらく嫌いではない。一緒に居るのを嫌だとは思わないし。人としては好きな部類なのかもしれない。
しかし恋愛感情はないと思う。この男に他人には抱かない感情を持った事は無い。
そもそも私は女と付き合った事も無いのだ。いきなり男を好きになる方がおかしい。

それに、彼が私のことを好きだと言うのも怪しいものだ。
愛してるアイシテルと事あるごとに言っているが、本当にそう思っているのだろうか。
愛してもらっている割には、特別な事をしてもらっている気もしないし、労られることもない。

結局彼は私の事を都合の良い性欲処理相手ぐらいにしか思ってないんじゃないか。
妊娠しないし、責任をとらされることもない楽なヤツだ、と。
私に対する愛の言葉も、普通に他の女にも言ってそうだ。


「おーい、聞いてんのか」

彼の声でハッと我に返る。

「うん」
「で、どうなの?いいの?」
「何が?」
「やっぱ聞いてねえな。今日ウチに来ないかっつってんの」
「・・・・・別にいいよ」
「マジで?じゃあ何か買って帰ろうぜ。腹減ってるし、家なんもねーから」

そう言いながら当たり前のように手を握ってくる。
指を絡めるような、友達同士ではしない握り方に少し戸惑う。
南雲の手は温かくて心地いい。しかしこの心地よさを保つ為だけにこの状態を続けてもいいのだろうか。


「君は私のどこが好きなの」
「え?なんだいきなり」
「正直、私は自分で自分の性格を良いとは思わない。それに君は女から好かれるタイプじゃないか。なんで私なんか・・・」
「ばーか、全部まとめて好きに決まってるだろうが!」


性格めんどくさい所もノリ悪い所も全部なー!そう言いながら手を解き、南雲は機嫌良さそうに私の数歩先を歩き出す。
私はそれなりに考えているのに、あくまで軽い態度にすこし腹が立ち、言わなくても良い事を叫ぶ。


「私、多分君のこと愛せないよ」


南雲はピタッと足を止め、ゆっくり振り返る。
怒ったか、そう思った。
しかし、いつもの優しげな笑みではなく、ニヤリ、と無防備な獲物を見つけた獣のように笑った。
この男に特別な感情を抱いた事は無い。はずなのに、背筋にゾクリと恐怖なのか安堵なのか、えも言えない感覚が走る。


「だから、そういうとこも全てひっくるめて好きなんだよ。おまえが」


やはりこの男。よくわからない。
そう思いながら、私は今日も好きでもない男の部屋に行く。





2012/05/06
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