直接的な性描写はありませんが一応注意。涼野女体化。





彼に出会ったのは半年ほど前、高校生になったばかりの時だ。
私は近所の飲食店でバイトを始めた。決して小遣い欲しさなんかではない。

私の父はどうしようもない飲んだくれのクズだ。あの男に暴力を振るわれない日なんてあるのだろうか。
私の小さい頃に母は亡くなっており、物心ついたときから父はこうだった。
もしかしたら母が生きてたころはもっとマシな男だったのかもしれないが、もはや関係のないことだ。
当然、そんな奴のことだ。稼ぎも少ない。
中学生だった今までは義務教育なこともあり、教材費等もなんとかやってこれたがこれからは無理だ。
恐らく父は私の大学受験の費用など用意してはくれないだろう。参考書なんかも然り。

だから私はまだ受験勉強をしなくても済むこの時期から出来る限りバイトをしてお金を貯めようと考えた。
高校生の自給なんてたかが知れているし、お客さんに怒鳴られることも多い。
家に帰れば殴られるし、周りの同級生たちは部活や同好会等で楽しそうな学校生活を送っているというのになぜ私だけ、と思うことも最初の時は多々あった。

でも、良い大学に入れればきっと割の良いバイトも見つかる。
家庭教師なんかをやれば安いアパートぐらい借りられる。
父から解放される。その考えだけを生き甲斐に、バイトを続けていた。


そんなある日、バイトの先輩の男に声をかけられた。
ちょくちょく時間帯が一緒だったが、話したことは今までにない人だ。
真っ赤な髪の毛をしていて、笑うと犬歯が見えて・・・最初の印象はただただ怖そうな人ということだけだった。

でもその第一印象は間違いだったことに気付く。その人はすごく優しかった。

「まだ高1だろ?大変だな」

簡単に働いている理由を説明するとすべて分かったようにそう言って、私を労ってくれたのだ。
別に誰かに同情されたいなんて思ったことは無かったが、それでもそんなことを言われたのは初めてだったのでとても嬉しく感じたのを覚えている。


その日から彼は私のことをすごく可愛がってくれた。
バイトが終わるとよく私をご飯に誘ってくれた、
ファーストフードとかコンビニ弁当とかも多かったけど、それでも父の居る家で菓子パンを静かに齧るよりずっとマシだった。
あんまり良い大学を出ているわけじゃないらしいけれど、彼はすごく頭が良い。
高校生の問題なんかはサラサラと解けて、私はよく図書館で勉強を教えてもらった。
勉強の合間に話してくれる面白い雑学や役に立つ知識を聞くのが私は大好きだった。


ある時、彼に学校のことや父親のこととかを話してみたら、急にせつが切れたみたいに涙が止まらなくなってしまったことがあった。
恥ずかしくて情けなくて、どうにかして泣き止もうとしている私の背中を、彼は何も言わずにさすってくれていた。
嗚咽まじりの汚い声で、私は今まで言いたかったことを全部ぶちまけた。
馬鹿なことも沢山言った気がする。でも彼は静かに最後まで聞いてくれた。

その時から私の彼に対する見方は少しずつ変わってしまった気がする。
私の中で彼は、優しい父親のようで、意見の言える兄弟のようで、仲の良い友達のような人だった。
しかしそこに今までに触れたことのない、浅ましくて切ない感情が芽生えた。

彼と外を歩くと女の人に声をかけられることが多かった。
みんな彼のことを知っていて、親しげに話かけていた。
その度に私は恋人かどうか聞き、彼はいつもただの知り合いだと答えた。
反応を聞くと私はホッと安堵するのと同時に虚しくなっていた。
私ごときが彼とずっと一緒にいることを望むのはいき過ぎている。
私はずっと年下だし、彼は私のことを妹として可愛がってくれているだけ。
仮に今恋人が居ないのだとしても私がどうしてその位置になれると少しでも考えてしまうのだろうか。不可能だ。





「今日休館日なんだってな、図書館」
「・・・そうらしいね」

お店の厨房で山になった皿を洗いながら彼と話す。
今日はせっかくの日曜日だというのに臨時休館なんて残念だ。これじゃ彼と勉強ができない。

「わかんねーとこねえの?」
「ある、けど休館じゃ駄目だね今日は」
「なんなら俺のアパートくる?」
「えっ」

思わぬ言葉に危うくお皿を落としそうになる。
会って7ヶ月だが、今まで彼の部屋に行ったことは無かった。

「汚ねえけど勉強するスペースぐらいあるし。出前取ってやるよ」
「行きたい!」
「お前ほんと食い意地はってるな」

そう言って笑われる。
もちろん出前に心惹かれた部分もあるが、彼の部屋に入れてもらえるのが嬉しかった。心を許してもらった気がした。



バイトが終わって、暗い夜道を彼と同じ方向に歩く。今日はやけにバイトが終わるのが遅く感じた。
私の家と反対方向にお店から15分ほど歩くと彼のアパートについた。

「古いだろ?これ絶対地震きたら一発でアウトだと思うんだよなぁ」
「私の家と大して変わらないよ」

203号室、慣れた手つきで鍵を開けて彼は部屋に入っていく。

「ドア閉めたら鍵かけといてくれー」

奥の部屋からそう聞こえてあがってもいいのやら、私はおどおど迷っていたけども扉に鍵をかけ、靴を脱いだ。
なるほど確かに汚い。足の踏み場が無いと言う程までにはいかないが、ビニール袋やら食べ終えた弁当の容器やらがあちこちに散乱していた。

でもそんな所も彼らしいなと思いながらきょろきょろしていると、唐突に後ろから足を払われた。

「っ!」

どすんと尻餅をついて、鞄を投げ出した。
バイト先でもしょっしゅう膝かっくんとか、後ろから目隠しとかしてきていたので今回もその部類だろう。
咎めようと彼を見上げて、私は固まった。

いつもの穏やかな顔がなく、かといって怒ってるわけでもない。
じっと私のこと見下ろしており、電気が付いているのに何故かすごく顔が暗く映った。
商品を品定めするような目だ。私は瞬時にそう思った。

途端、彼はしゃがみ込んで私に覆いかぶさってきた。
ビックリして、流石の私も何をされるのか気付き彼の身体を押し返そうとする。

パチンと嫌な音がして私の頭は畳の床についた。
頬がジンジンと熱く、痛くなり、やっと叩かれたんだと理解する。
間髪入れずに今度はわき腹を殴られる。今度はあまり痛くない。
あまり痛くないのが逆に凄く怖くて、これからいくらでも痛くできると言われているような気がして私は縮こまった。

「なぁ知ってるか?」
さっきまでの恐ろしい無表情ではなく、ニヤリと笑って彼は言った。
いつもこのフレーズで、面白い知識を沢山教えてくれるんだ。

「これ民事裁判とかでも実際に使われてるんだけどさ、女が自分で扉閉めて部屋に入った場合、それはもうされる”行為”に同意したってことになるんだぜ」

つまりこれは強姦じゃなくて同意の上のセックスってことだ。・・・そう言いながら私の両肩に全体重をかけてきた。

「俺あんたのことけっこう好きだからさ、あんまぶん殴ったりしたくないんだよ」

だから大人しくしておけという意味なのだろうか。何か言う前に、もう私のブラウスのボタンは全て無くなっていた。






意外なことに、それからも彼との関係が大きく変わることは無かった。
今まで通り仕事をし、勉強を教えてもらい、たまに相談にのってもらう。
変わったことは彼の部屋に私が入り浸るようになったことと、それと連動して週何回か抱かれるようになったことぐらい。
機嫌がわるいと叩かれる時もあるが、父に思いっきり灰皿で殴られるよりは良い。


畳の上に横になる。
目がところどころ立っていて、だいぶ長いこと変えてないんだろうなぁとぼんやり考える。

「風邪引くぞ」
「じゃあ服返せ」
「お前口悪くなったなぁ。前はもっと素直で可愛かった」
「君のせいでしょ」

彼の言う通りこのまま裸でいるのは辛い。
かといって汚い部屋の隅でグシャグシャに丸まっている自分のワイシャツに腕を通す気にもなれす、一回り大きい男物のTシャツを着る。

「帰らねえのか」
「おなか痛いし明日早い。今から帰ったら寝るの何時になるかわからない」
「大変だなァ学生は」

そう思ってるのならもう少し人の身体に気を使って欲しいと言おうかと思ったが、最近の中では珍しく機嫌良さそうに笑っているのでやめた。


「お前にレイプ願望があったとは思わなかった」
「あの時はキスして欲しいとも考えられないようなおぼこちゃんだったけど」
「だとしたら余計やばいって。犯されたいと思ってなかったんならなんで俺から逃げねえの」
「知ってるくせに」

足に軽く蹴りを入れると、南雲は楽しそうに笑って布団に私を引き込んだ。


「お前さ、大学生になっても男遊びとかすんなよ?」
「だったら君も”いっぱい”彼女作るのやめたら」
「彼女なんて一回も作ったことねーよ。あれは遊んでるだけ。相手も本気にしちゃいねーって」
「じゃあ私を彼女にしてくれる?」
「なんで女ってそんなに肩書きにこだわるんだかね」


「彼女じゃなくったって彼女より愛してれば良いじゃねえか」
そう言うとすぐに彼は寝息をたてはじめた。

彼の言う「愛」とは何なのだろうか。
セックスか、家族としての愛か。それとも私を女として愛してくれているのか。
少し考えたがそんなことどうでもいいことに気付いた。
だって私は、少なくとも「たくさんの彼女たち」より、南雲晴矢とと共に時間を過ごせているのだから。





2012/04/29
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