「…チェシャ…これから、どうするの?」

「今際の国の国民」を名乗る四人がテレビで一人ずつ喋った後、少女はチシヤの膝に乗せていた頭を微かに上げた。
チシヤは浮いた頭を戻すようにやんわりと押さえつけ、そのままの姿勢でいるように促すと、少女の頭を撫でる手を動かす。

「とりあえず明日の正午まで「げえむ」は始まらないみたいだし、今夜はここで過ごそうか。キティは少し、寝た方がいいね」
「…、」
「そんな顔しなくても、オレはいなくなったりしないよ」

寝ろと言われた少女は不安げにチシヤを見上げ、チシヤが何を言おうとその表情を変えない。結局、チシヤが少女に添い寝をするように横になることで落ち着いた。
暫くしてやっと寝息を立て始めた少女にやれやれとため息を吐くチシヤだったが、体を起こそうとして少女が自分の服を握っていることに気付き、もう一度ため息を吐く。

「…やっぱ、ワケわかんない」

チシヤにも、少女の考えていることの大半は分からない。先程のように目や表情で何かを訴えてくれば多少はその意図を読めるが、少女が何故ここまで自分といようとするのか、チシヤ自身にも心当たりがない。
チシヤはもちろん、少女を利用するために手元に置いているが…少女はチシヤの考えを知っていながら、チシヤに付き従っている。チシヤには、利用されると分かっていながら離れようとしない少女の考えが、全く理解できなかった。

     *

「…麻雀のルール、知ってたの?」
「なんとなくね。キティは知らなかった?」
「…うん」
「そっか、退屈だったね」

「だいやのじゃっく」を「くりあ」したチシヤに、少女は問いかける。
チシヤは、抜けた床の底を覗き込もうとする少女の手を引き、「次はきっと面白いよ」と笑いかけた。
少女には、それがチシヤ自身にも向けられた言葉だと思った。
外に出ると、嵐は止むどころかその勢いをさらに増していた。傘を差していても雨を防げるのは頭部まで。「だいやのきんぐ」の会場である最高裁判所に着く頃には、服が水を吸って重くなっていた。

「!」

裁判所の前には3人の男女。
エントリー数は「4名じゃすと」と書かれている。

「…一人多いみたいだね。キティ、黙って見ていられる?」
「…うん」
「じゃあ、行こうか」

先に来ていた大人たちが、チシヤの後ろを着いて歩く少女に好奇の視線を向ける。少女はそれらの視線を特に気にすることもなく、チシヤを追って裁判所に入った。
奥の部屋へ進むと、一人の男が、円を描くように並べられたデスクの一つに座っている。

「やっぱり、アンタだったんだね。“元”ビーチ幹部3…クズリュー。」

座っていた男…だいやのきんぐ・クズリューは表情一つ変えずに、席に着くように促す。

「…一人多いの。だから…ここで、見ててもいい?」
「…いいだろう。ただし、誰かに助言をしたり「げえむ」を妨害するようなら出ていってもらう」
「…うん」

少女は頷き、足枷を嵌めたチシヤの後ろに立つ。
…それ以降、少女は一言も声を発しなかった。チシヤとダイモンが言葉を交わしても、ベンゾーとアスマが王水を浴びて息絶えても、チシヤの減点が死の一歩手前まで及んでも、少女は眉一つ動かさずにただ立っていた。
そして、「げえむ」は進み、ダイモンも死んで新ルールが追加される。クズリューの苦悩を知ったチシヤは100を選び、そのタブレットの表示をクズリューに見せた。
クズリューは驚きの表情を浮かべるが、少女もまた、その顔に変化を見せた。

「…チェシャ…」
「キティ、黙って見ている約束だよね」
「…ごめんなさい」

囁きに近いような声を漏らした少女をチシヤが窘めると、少女はすぐに謝る。が、その表情は微かに曇ったままだ。
二度目にチシヤが同じことをしたときには、少女はもう何も言わなかったが、三度目の時にクズリューの目が少女を捉えた。

「…私が0を選ばなければ、どうするつもりだった…?」
「…」
「話していい。私が許可する」
「…」
「…キティ、」

クズリューの問いに何の反応を示さない少女は、チシヤが声を掛けて初めて口を開く。まるで、最初からチシヤの許可を待っていたように。

「…チェシャが、死を選ぶなら…私はそれに、従うだけ…」
「つまり君は、彼と一緒に死ぬつもりなのか」
「………私のことは、気にしなくていい。…これは、あなたと、チェシャの、戦い」

クズリューは何も言わない。
ただ、その目に一瞬迷いが浮かんだのを、チシヤは見逃さなかった。次の瞬間には、その顔に決意が見えたのも。

「………そっか、アンタは…命の価値を、「自分では決めない」ことに、決めたんだね…」

0と1を同時に押したクズリュー。機械の判定は0を表示し、チシヤが勝ち残った。

「アンタが…羨ましいよ…」

クズリューが死んでも、彼のいた場所を見つめたままのチシヤ。少女はチシヤの漏らした呟きに、寂しそうな視線を送った。


   *   *   *

タイトルはお題botより。
誰か私に麻雀を教えて…。