2018年12月13日

哲学の先生とお話をした。
尾形さんは相も変わらず退屈そうにしている。
元々は私から声をかけた。今日の授業の内容が未来への責任やら人間の尊厳やらの話で、それを聞いていて「約束のネバーランド」を思い出したから。
知ってますか、と。
他にもいろいろ、話をして、私が本気で他人に興味がないらしいことに、先生は軽いカルチャーショックを受けているようだった。
私の勝手な感想をいうならば、先生は優しいのだと思う。他人に議論を求めるのも、怒るのも、それだけ他人に関心を持って、期待しているということだと思うから。私にそんな感情はない。
殺してやりたいほど嫌いな人の一人くらい、いませんか。講義中に先生が言っていた。少し考えて、死ねばいいのにと心から思う人間は自分だけであると思った。…嫌いな人、と考えて、母が頭に浮かんだのはなぜだろう。
殺したいほど嫌いな人もいないけれど、こうなりたいと思うほど憧れる人もいない。
先生は、きっと本当に他人に関心がないんですね、と言った。カルチャーショックを受けていたのは、先生が優しい人だからだ。みんな、自分と同じように、他人に関心があると思って疑わないほどに。
なにが好きですか、と聞かれて、フィクションと答えた。本、漫画、アニメや映画。哲学は楽しいですかと聞かれたから、頷いた。なんの話が好きですかと言われて、アイデンティティ、と返す。同一性。人は昨日と今日で同じ人間だと言えるのか。
夜寝て起きて、自分が昨日と同じかなとか、おもいませんか。先生が言っていた。子どものころ、親に怒られているとき、悪いことをしたのは"さっきの自分"で、それなのにどうして"今の自分"が怒られているのだろう、とか、思いませんでしたか。
面白いと思う。私は、目の前の人間がどうすればいちばん早く黙るか、しか考えていなかったから。
私を私たらしめるもの。
それは、影であり、死を望む心であり、あの人の死だと思う。あの人が死んだこと。
先生には言わなかった。
彼が、私の目を手で覆った。
──りん。それ以上考えるな。
深呼吸をひとつ。
バイトまで時間がなかった。
私もまだ話したかったし、先生もそうだったみたいだけど、バイトなので、とお別れした。

私は単行本しか読まないから、よくはわからないけれど、本誌では杉元たちがアシリパちゃんに追いつきそう、らしい。たぶん。
尾形死ぬんじゃないの、とか、死んでも尾形は尾形だし、現パロには関係ない、とか言ってる人が、ツイッターに何人かいた。
尾形さん、死んじゃうの。
さあな。
死なないでね、悲しいから。
……死ねば、あいつと同じになれんのか。
あいつ、はあの人のことだと思う。
尾形さんの考えていることは知ってる。私の気まぐれで姿を変えてしまう影。このままでは、いつか尾形さんもほかの彼らと同じように私の隣にいられなくなる。なら、原作の自分が死ねば、私の"永遠"として想われ続けることができるのではないか。あの人のように。
尾形さんは、そういう人だ。
私とよく似ているくせに、他者からの愛情を諦めていない、人としての根底の部分は真逆なのだ。私にそんな執着心はない。
……ね、いまは、尾形さんがいちばん好きよ。知ってるでしょう、私は一度に複数の人を好きにはなれない。だから、今ここにいるのは、私と尾形さんだけなのよ。それじゃだめなの。
俺が欲しいのは、そんなものじゃあない。わかってて聞いてんだろ?
…そう。分かってる。彼はほかの影に私を譲るような真似はしない。彼は、私の心を痛めつけてでも、自分の存在を刻みつけたいのだ。永遠のものとして。
ひどいひと。