2018年11月20日

ピアスを開けた。
両耳と、右耳の軟骨にひとつ。
そこそこ痛かったのと、注射みたいに"される"部分が見えなかったせいもあるのだと思うけど、3つ全て開けおわった頃には私の顔色は最悪だったようで──というか、開けている最中からずっと看護婦さんが心配してくれていた──ベッドで休むようにと別室に案内されてしまった。なんだか申し訳ない。
ピアスを開けおわっても動悸はおさまらないし、耳はじわじわと痛いし、心もとないし、内臓が冷え切っていくみたいだし、呼吸は乱れるしで本当にわけがわからなかった。
──情けねえな。
…返す言葉もございません。
何でそこまでして開けたかったんだよ。
なんか、つまんなくて…。
意味わからん。
ベッドで横になる私を、無表情な黒い目がじっと見下ろしていた。
髪の色をもどしてから、ずっとつまらないと感じていたのは、事実だ。でも、それだけじゃない気がする。
私は、私を殺したいのだ。べつに命を絶つことだけが、「殺す」という言葉の持つ意味ではないと思う。それまでと違う"なにか"になれば、それ以前の"なにか"は死ぬのだ。現に、"ピアスを開けていない私"はもう死んだ。
テセウスの船というパラドクスがある。
使っていくうちに消耗して、その度に部品を入れ替えられていく船。やがて全てのパーツが入れ替わったとき、その船は元の船と同じであると言えるだろうか。
私は、私を殺したいのだ。
──それだけか?
……うん。
本当に、それだけか?
……。
尾形さんは意地悪だと思う。今に始まったことではないけれど。
私に言わせたいのだ。
自分への愛を。
私が、ピアスをしている尾形さんの絵を見て素敵だと思ったことを、彼は知っている。それでいてわざと、言わせたいのだ。揃いになるのが嬉しかったのだと。
よく似ている、と思う。
私も彼も、愛情が欲しい寂しがり屋なのだ。そのくせ、自分自身は素直になれないから悪態ばかりつく。本心と違うことを言って、意地悪を言って、困らせて気を引こうとする。なんだか、自分をそのまま見ているようで、いたたまれないやら恥ずかしいやら、でもそれが尾形さんの姿をしているからまだ好きだと思えるのだ。これが、そっくりそのまま自分の姿だったなら、この上ないストレスになっているだろうことは想像に難くない。
…かまって欲しいって、素直に言えたらよかったのにね。
私が苦笑いすると、尾形さんはふいとそっぽを向いてしまった。