2018年11月8日

ゆき、と時々呼ばれたような気がするのだ。未だに。姿はない。たぶん、呼ばれてもいない。けれど、呼ばれたような気がする。時々。
赤毛の彼を好きでいたのは、ちょうど2年間。続いたほうだと思う。わりと。翠の目をした彼はどのくらい長かったか、正確には覚えていないけれど、彼はとくべつ長かっただけだ。ほかの人は1年も続かないことだってある。2年は長いほう。

いつか死ぬ。いつでも死ねる。
それだけが私の支えなのだ。最近はよく、ガラス瓶の種のことを考える。たぶん、致死量に足りるはず。
──俺が頭をぶち抜いてやろうか。
できないくせに。
なんだよ。俺に殺されたいんだろ?
でも、叶えられない。でしょう?
あんたがそう思うからだろ。
事実だよ。
……頭を撃ち抜かれて死ぬ。あの人と同じ。素敵なこと。でも、それは叶わない。
軍服の上にマントを羽織っている彼は、室内だと暑そうに見える。でも、私がその姿でソウゾウしてるから。仕方ないのだ。
──りん。
呼び方は決まった、らしい。私がこうと決めたわけではないつもりだけど、彼は私をそう呼ぶようになった。
りん。
彼は、私を甘やかしてくれない。
ただ名前を呼ぶだけで、いつも少し離れた場所にいる。あまり話してもくれないし、触れてもくれない。赤毛の彼や、あの人は、よく撫でてくれたのに。
距離をとって私をにやにやと見つめる彼が、何を考えているのかは知ってる。すがりついて欲しいのだ、私に。あなたしかいないと、泣いて、依存して、壊れてほしいのだ。…そんなこと、できるわけないのに。私がほんとうに壊れたら、尾形さんだって消えてしまうのに。
なぜそんな歪んだ情を向けてくるのか。答えは簡単。私が彼をそういう人だと認識しているからだ。私の認識はそのまま影へと反映される。彼は、私に、「唯一」で「特別」だと言わせたいのだ。そうではないと、知っていながら。
ひどい人。
彼も、あの人も、私も。
みんな、ひどい。