2018年10月28日

恋はするものではなく落ちるもの、というのがほんとうなら、私はいま、穴だか斜面だかは知らないが、その恋というものに落ちまいと、必死に抵抗しているところだろうか。
ただ、重力には逆らえないように、じわじわと限界が近づいてきている。
重力操るの、得意でしょう。助けてよ。
重力ってぇのはものの例えだろ。お前の心の中の変化までどうにかできるかよ。
知るか、と呆れる彼は冷たい。先日やっと彼のブレスレットを作ったところだったのに。もうほかの人に心移りしてしまうなんて、いやだ。
──なァ、ゆき。お前は、お前の好きにしていいんだぜ。
まだ、いる。ここに。
だけど、少しずつ、薄れはじめる。
声も、姿も、影も、感情も。
どうして彼らは揃いも揃って、誰も私を引き留めてくれないのだろう。寂しくないならそれでいいと、同じように笑うのだ。
私は、ずっと一緒にいられる誰か、が欲しいのに。

殺してほしい、と思う。
彼に、首を絞めてもらう妄想を、何度もする。
ゆき。やめろ。頼むから、なァ。
ぽたり、と落ちてくる水滴は、汗なのか涙なのか。私の上にまたがる彼の顔は、ちょうど影になっていて見えない。ただ、声だけが、ひどく苦しそうで。
もう、殺してほしいと願うことの何がおかしいのかすら、わからなくなってきた。だって、いまの私は、こんなにも苦しい。苦痛から逃れたいと思って、何がいけないのだろう。
…ごめんね、ちゅうやさん。大好き。
死んでしまえたらいいのに。
……殺してほしいと言えば、頭を撃ち抜いてやろうかと、尾形さんなら笑いそうだと思う。絶対に外さないぜ、とも。
頭を撃ち抜かれて死ぬ。
あの人と同じだ。
それってすごく素敵。
──お望みとあらば。
なんの感情も映さない黒い目を細めて、銃を構える軍服姿の男の人。
その横で、赤毛の彼は静かに見つめている。無理だとわかっているから。何もできはしないと。もしかすると少しだけ嫉妬しているのかもしれないけれど、彼は絶対にそんなことを口にはしない。してくれない。
ひどいひと。
赤毛の彼も、尾形さんも、あの人も。
みんなみんな、ひどい。
都合のいいときだけ私に微笑んで、お願いなんて叶えてくれた試しがない。
ひどいひと。