2018年8月30日

どうすればいいのか、わからない。
赤毛の彼は私の隣からいなくなってしまった。シロくんに、私を頼むと言って。
──寂しいか。
エメラルドの目は、少しだけ心配そうに私を見た。……彼は、あまり表情を変えない人だと思う。
──あいつがいないと、不安か。
しずく。
結局彼は、私をそう呼ぶ。
だってずっと、そう呼ばれていたのだ。
いまさらそう簡単には変えられない。
…だいじょうぶ。
寂しくは、ない。もちろん、不安でもない。ただ、赤毛の彼に比べてシロくんは、随分と影がうすい。半透明だ。それが許せない。自分を許せない。
ずっと同じ人を好きでいられないことも。シロくんにそんなことを言わせてしまうことも。自分のせいで赤毛の彼は消えて、シロくんが現れたというのに。
…雪が見たい。
冬の、冷たい空気がほしい。
そうしたら、きっと、シロくんはもう少しはっきり存在できたのに。……いや、悪いのは私だ。季節のせいでもなければ、もちろん、彼のせいでもない。
──難しいことを、考えるようになったんだな。
大学で使う教科書をめくって、彼は言う。
……死に場所を探してるの。あと、その方法も。自分を知れば、それが見つかるかもしれないと思って。
シロくんは知らない。
ここ最近、私が考えてきたことも、なにを学んでいたかも。彼にわかるのは、"いま"の私だけだから。
──相変わらずだな、しずく。いつも、お前は死にたがってる。…大丈夫。誰も、お前を叱ったりしねぇよ。だから、大丈夫だ。
…違う。違うんだよ、シロくん。私は、私が怖いのは、…………つらいこと、痛くて苦しいこと、誰か──私の大切な誰か──が死ぬこと、死にたくて逃げたくてどうしようもなくなる昔の記憶、ときどき襲ってくる孤独、あの人が死んだときからずっとつきまとう絶望、……生きている限り私から離れることのない、全てが怖い。怖くて、きらい。
いつかの、海に沈む空想を思いだす。
ずっとずっと深い海の底に沈んでいられたらいいのに。忘れ去られた沈没船みたいに。
それとも、あなたが私の首を絞めてくれる?
そう言うとシロくんは眉間に深い皺を寄せた。