2018年6月13日

最近読んでいる本。『神様のボート』。
消えてしまった人を待ちながら、引越しを続ける女の人と、その娘。
いくつになってもどこか夢見がちなままの母親と、成長して大人びていく娘。
必ず戻るという言葉を信じて、女の人は街を転々とする。
「私はあのひとのいない場所にはなじむわけにいかないの。」
絶対にいつか会えると信じて。
うらやましいと思う。
信じていられる強さも、心の支えとなる約束があることも。
──幸福って、なんですか。
このまえ哲学の講義の感想にそう書いてしまった。先生が読むのに。
私にとっての幸福も、それが絶対に叶わないことも、私がいちばんよくわかっているくせに。
あの時の私はどうかしていたのだ。
……思い出があったら。
思い出があったら、私は生きていけたのだろうか。あの人との。彼との。
それを心の支えに、幸福に浸れたのだろうか。──たぶん、むり。
彼は悲しい顔をする。私がその結論に至ることも、それがただの絵空事でしかないことも、彼は知っている。
ごめんね。
謝ると、彼はちいさく首を振った。
気にするな、とも、そうじゃない、ともとらえられるし、どちらもちがう気がする。
大好きよ。
今度はうすく微笑んだ。
諦めたような、悲しいような、安心したような、そんな顔。
青い石のアクセサリーがほしいな。
彼の瞳を想う。
菫青石は、あまり見かけない。
「あたしは現実を生きたいの。ママは現実を生きてない。」
娘はそう言った。
やっぱり、うらやましい。
私は、現実を生きたくないのに生きている。ほんとうは逃げてしまいたいのに。
──るりちゃん。
思い出すと、泣きたくなる。
そろそろあれがくるのかもしれない。
月に一度のあれ。
感情なんかいらないと叫びたくなる。
そうすれば、今よりうんと楽なのに。