2018年6月4日

今日は暇だった。
社員さんたちがよく冗談や雑談を交わしていた。飲み物をたのんでも食べ物をたのまない人たちもいた。バイトがいる時間はきほん料理しか作らない社員さんたちは、よけいに暇そうだった。
大人の人が、しゃべっているのを見るのが好きだ。私がそこに混じりたいわけじゃない。ただ、眺めているのが好き。
いつか見た、あの幸福な夢もそうだった。あの人と両親がしゃべっているのを、私は少し離れたところで見ている。ふいにこちらを向いたあの人が、ほほえむ。──もうちょっと、まってて。
幸福すぎて、現実に絶望する夢だった。あれを幸せというのなら、私は絶対に、幸せになんかなれない。思い出すと、いつも悲しくなる夢。目が覚めたときの絶望は忘れられない。
あの人は、どこ…?
そういえば、こっちのお店の店長は、すこしだけ雰囲気があの人に似ている。私の勝手なイメージだけど。それに、店長はよく笑う。あの人と違って。顔もあんまり似てない。ただ、雰囲気だけが、少しだけ似ている。
──ちゃん。
ぞっとする。自分の名前。気持ち悪くて。名字でいいのに、と思う。そっちの方が、まだマシ。
──るりちゃん。
──ゆき。
あの人も、誰も、影はひとりとして私を本当の名前で呼ばない。彼らが愛しているのは、私じゃない誰か、でないといけないから。
「私が好きな人は、私なんかを好きにならない。」だから、大丈夫。私は、ずっと彼らを好きでいられる。私はずっと、誰かに片想いをしていたいのだ。私に向けられる愛情なんて、気持ち悪すぎる。
……そういえば。
今日も店長は、私の私服を見なかったな。お気に入りのスカートだったのに。この前の手抜きの私服は見たのに。
──かわいいね。
隣であの人が笑う。
可愛いでしょ。"服は"ね。
半分拗ねる私に、あの人は否定も肯定もしなかった。