2018年4月29日

誕生日、らしい。
赤毛の彼の。
春はきらいだ。虫が飛び始める。日が長くなる。気温が上がっていく。
春も夏もきらいだ。
でも、夏生まれのあの人の誕生日は、ちゃんとおめでとうって思える。…なんで彼の誕生日は気に入らないのだろう。
私と同じ、誕生月だからかもしれない。
私と同じ記号を持つところが気に入らないのかも。身勝手な話だけれど。誕生日なんてただの記号だ。どんな時期、どんな季節に生まれようと、その人の本質とは何の関わりもない。たぶん。
本質は、自分に似ている人を好んでいる自覚はある。物静かな人。素直になれない人。真逆の人──赤毛の彼なんか、特にそうだ。馬鹿なくらいまっすぐで、子どもっぽくて、でも大人びていて、自分の感情に素直そうな人──も勿論いる。でも、自分と真逆の人しか好まないわけじゃない。
私は、自分の記号がきらいなのだ。
名前。容姿。誕生日。
自分と同じ記号を持つものがいやなのかもしれない。だから、彼の誕生日は祝う気になれない。私と同じ春生まれ。同じ誕生月。桜の季節。冬が終わってしまう、だいっきらいな季節。
桜みたいに、簡単に散ってしまえたらいいのに。

セクハラって、なんで男性より女性への方が取り上げられるんですかね。
哲学の先生──病弱そうな、私の好きな、非常勤の先生──の言葉をふと思い出した。
先生は別に、不満があったわけではないと思う。ただ、平等じゃないとか、ジェンダーの話の最中だったし、ただの疑問として、そう言った。
大前提として、男性は強くて女性は弱い生きもの、というのが人間の意識の根幹にあるのだと思う。男性だから、女性だから、そう思う、のではなく。一般的なイメージとして、偏見や差別とかではなくて、実際に腕力とかの問題で、女性はきほん男性には勝てない。むっきむきに鍛えている女の人とひょろひょろの男の人では、力関係は逆転するかもしれないけれど。
野生動物の狩りの映像を見て、何を思う? 草食動物の目線で見れば、逃げて、頑張って、肉食獣怖い、ああ捕まってしまった。肉食動物の目線で見れば、頑張れ、もうちょっと、やった捕まえた、でもちょっと食べられちゃうの可哀想、でも自然の摂理。
…そんなところ。
女性は草食動物。男性は肉食動物。でも動物の狩りと違うのは、その行為が必要ではないということ。本来は合意のうえで行われるべきということ。自然の摂理だもの、なんて心の逃げ場はどこにもない。"仕方ないこと"では片付けられない。
立場の弱いものが痛めつけられることに、人は心を痛める。可哀想。可哀想。なんてことを。
じゃあ逆に、肉食動物が草食動物に傷をつけられたら? あら痛そう、でもあなたの方が強いでしょう? いざとなったら勝てるもの、大丈夫よね、すぐ治るわよ。
いざとなったらあなたの方が強いでしょう? そういうことだと思う。もちろん、人間の社会は野生動物とは違う。社会的地位。重圧。脅迫。男性が女性に逆らえない状況は作り出せる。でも、物理的なものじゃない。力関係は、男性の方が、上。
そういうことだと思う。

バイト先に、可愛い顔の人がいる。
男の人。
名前はいまだに分からない。
可愛い顔してるなぁ。いつも思う。
イケメンの部類に入るのかどうかは不明。私にはそういうのはよく分からない。
可愛い顔だなぁ。いくつだろう。
割れた食器を素手で片付けたり、火を止めたばかりの鍋に手を入れたり(レトルトのカレーか何かを取っていた)、可愛い顔のわりにすごいことする人。
それが、今日、ふと思ってしまった。
……受けか攻めかで言ったら、受けだな。可愛い顔して攻めな人もいるけど、あの人は多分、受け。
そこまで考えて、我に返った。あやうく吹き出すところだった。
ぶはっ。彼は吹き出した。
んんっ。
軽く咳払いして笑いをこらえる。彼はとなりで笑い転げている。
脳が腐りかけているのか、疲れているのか。どちらなのかは分からなかった。