2018年4月25日

哲学の先生──「人それぞれ」の、あるいは女性車両の先生──は、話を聞いているたびに、社会不適合者、の文字が頭に浮かぶ。決して悪く言いたいわけではない。私はあの先生が好きだ。ただ、純粋に、率直な感想として、その言葉が浮かぶ。
小学生の頃から、学校が好きではなかったらしい。テストをやる意味が分からないし、それを教師に訴えたりもしたが、相手にされなかったとか。均一に、平らに、生徒に教育をする制度も気に入らなかったし、上からな態度をとる教師も好きじゃなかったらしい。
個性を伸ばす、とか掲げてあると、どこがだよって思いますよね。制服とか、校則も、意味が分からないもの多くないですか。授業中にスマホを出すな、とかもですね。分からないことをすぐに調べるのに、こんな便利なものはないのに、いつでも使えるようにしておくべきだと思うんですが。
集団の中で、"他人と同じフリ"をして足並みを揃えるのが苦手なのかな、と思う。主張に筋が通っていても、ルールを変えるのはとても根気と気力がいることだ。先生からそんなものは感じられない。ルールをおかしいとは思っていても、自分で変えようとするタイプではなさそうだ。そうして人の輪から外れていく。
社会不適合者。
嫌なことをするとお腹が痛くなる、とも言っていた。大学の講師なんて、好きなことだけして生きている人の極みだ。
エクセルとか、使うの嫌なんですよ。データ入力とか。レポートとか読んでても、読むのは楽しいんですけど、点数つけるために表に数字打ち込んだりとか、もう嫌になります。
…うん。この先生、絶対に普通の企業とか、一般の社会で生きていけないだろうな。先生もそれを分かっているから、大学の講師をやってるんだろうけど。
大丈夫か、こいつ。
彼が隣で呆れてる。苦笑いをしておいた。

昨日も今日も、そこそこ忙しかった。飲み会の時期になったのだろうか。声を張り続けると少しだけ喉が痛い。
赤ワインの匂いを嗅いでみた。…くさい。
まだまだ子どもだな。隣で彼が笑う。
白ワインの方がまだいい匂いがした。白ぶどうのジュースが飲みたい。
いや、酒飲めよ。
うるさい。お酒弱いくせに。
お前はいくつになっても子どもだな。
子どものままでいたいんだよ。
14の私は確かに子どもだった。他の同級生と比べれば少し浮いていたかもしれないけれど、それでも大人から見ればただの子どもだったはずだ。あの人から見ても。あの頃から、私はずっと過去を見続けている。
世界は回る。
誰かがいなくなっても。
誰がいなくなっても。
どうにかなる。
どうにか、なってしまう。
私は、あの人がたくさんの人にとっての"唯一"でないことが悲しかった。あの人が死んでも、みんな前を向いていた。それが悲しかった。私は、あの人に"唯一"であってほしかった。私にとってがそうであるように、他の人にとっても、大事な人であってほしかった。私だけが、時間を止めた。みんな前を向いて進み続ける。私だけが立ち止まって、ずっと後ろを見続けている。ずっと。
──ゆき。
呼ばれて我に返る。
赤毛の彼は優しい目をしていた。