夜明けに微睡む水曜日


…ふと、目が覚めてしまった。まだ、朝の4時なのに。
時計と窓の外の暗さを見て、思わずため息が漏れる。…昨日お昼寝しすぎたかな…。
しかも、全く眠気がなくなっている――すっかり目が覚めてしまったらしい。
仕方ないとため息を吐いた私は、読みかけの本を持って、部屋着のまま静かにリビングへ向かった。
ただでさえ成長が遅くて(?)身長で悩んでいるひっつんを、こんな時間に起こすわけにはいかないと、私は物音の一つも立てずにリビングまで慎重に進んでいった…のに。

「よぉ、今日は早いんだな」

…な ぜ こ こ に !?
私の心遣いと努力を返せ…と内心は舌打ちをしつつも、ひっつんの隣のソファに腰かける。

「何だか目が覚めちゃったの。ひっつんこそ、毎日こんなに早起きしてるの?」
「いや、俺も目が覚めただけだ。いつもはまだ寝てる」
「そうなんだ」

だよねー。私より寝るの遅いのにこんな時間に毎日起きてちゃ、伸びるものも伸びないものねぇ。
…なんて心の中では失礼なことを考えていたけれど、ひっつんは静かにBLEACHの単行本を読んでいるからきっと口には出てない大丈夫。
というか………気まずい。
テレビも点けずに過ごす午前4時の空間に、読書(?)に集中しているひっつんと二人きりは、何だかとても気まずい。なにか…なにか話題を…!give me topics!!

「…ね、ねぇ…ひっつんってさ、もう猫になったりしないの?」
「…はぁ?」
「や、だから、つまり、その…もう一回猫の姿になったりしないのかなーって…」

読書(?)を邪魔されたことに対してか、変な質問をされたことに対してか、ひっつんは機嫌の悪そうな目で私を見た。(コワイ。)

「…知らねぇよ。だが…戻りたくは、ねぇな」
「え、可愛いのに…」

しまった。可愛いなんて言ったら殺される。
というか既に、私を見るひっつんの目には殺気が含まれているもの!!何言っちゃってんの、私。確かに仔猫の方が可愛かったけどっ。戻りたくないとか言ってて残念だなぁ、とは思ったけどっっ!それを口に出しちゃヤバいでしょー!
…あーもう、もう一回猫の姿になればいいのに。
   …ボゥンッ

「…え?」
「!?」

何だか聞き覚えのある爆発音がして、さっきまでひっつんの座っていた場所を見ると案の定、そこには…。

「戻ったー」
「にゃ、にゃー!?」

…見覚えのある、白い子猫。
嬉しい方に驚く私は、残念な方におどろくひっつん(猫)を抱き上げた。

「わー、モフモフだ。可愛い…」

ぎゅう…っと抱き締めフワフワの毛に貌をうずめれば、バタバタともがいていた腕の中の子猫は大人しくなった。
抵抗されなくなったことで調子に乗った私は、子猫を膝の上に乗せ、首やお腹や耳の裏を撫で回す。
これ、あとで戻ったら怒られるかな…。流石に猫の姿で威嚇されたらショックだなぁ。…なんて思っていたけれど。

「…ゴロゴロゴロ…」
「…!」

案外、満更でもないらしい。
むしろ、喉を鳴らして気持ちよさそうな顔をしている。
可愛いなぁ…猫飼いたい。

「…君、猫になっても目は緑なんだね」
「…にゃー」

抱き上げて視線を合わせると、少年の姿の時と変わらない色の瞳が私を映した。猫としては別に緑の目なんて珍しくも何ともないけど、日本人ならかなり特殊な色。

「目の話はされるの嫌なんだっけ?…私は綺麗だと思うけどなぁ」
「…!にゃー」
「“にゃー”じゃ分かんないよ」

ふふと笑った私は再び猫を膝の上に乗せ、丸まったフワフワの背中を撫でながら、これどうしようと考える。せめて変身するきっかけとかが分かれば、何とかなるんだけど…このまま猫の姿から戻れないなら、キャットフード買いに行かなきゃ。

「ねーシロくん、元の戻る方法とか、分かんないの?」
「にゃー」
「“にゃー”じゃ分かんないって」

困ったなぁ…。
…膝、あったかい。猫って人より体温高いんだね。なんか、落ち着く…。
覚めた筈の目は、だんだんと重くなっていき気付けば閉じてしまいそうになっていた。
…だめだよ。シロくんの戻る方法考えないと。
でも眠さには勝てず。

「シロ……くん、」
「…にゃ…?」
「zzz…」
「………」

すっかりお日様が昇った頃、いつの間にか元の姿に戻っていたシロくんに起こされた。



(なんだかちょっと残念…)