アンニュイな火曜日に


「…、おい…起きなくていいのか?」
「!?」

   がばっ
…あぁ…そういえば私は昨日、子猫だったはずのシロちゃんを拾ったんだっけ…。

「…オハヨウゴザイマス…」
「おぅ」
「…起きるの早いデスネ…」
「そうか?まぁ、いつもこのくらいに起きるからな」
「…今日は…仕事が休みなので…もう少し寝マス…」
「…は?」
「zzz…」
「………」

…昨日は、とにかく疲れていたので…シロちゃんには「とりあえず詳しいことは明日話すよ」とか何とか言って、さっさと寝ました(えへ)。
シロちゃんは、何だか呆れた目で私を見ていたような気もしたけれど、とりあえず案内した客間で大人しくしてくれて、私の安眠を邪魔するようなこともしなかったので感謝です。
でも…。

「…そんなに怒らないでください、日番谷隊長」
「…」
「機嫌直して、日番谷くん」
「…」
「大根おろし付きの出し巻き卵作ってあげるから、シロちゃん」
「シロちゃん言うなっ!!呼び方悪化してんじゃねぇか!元はと言えばお前が悪いんだろ!」

…どうやらシロちゃんは、私が二度寝して自分を放っておいたことを拗ねているらしいのです。

「甘納豆買ってきてあげるから、そんなに怒んないでよ、シロちゃん」
「シロちゃん言うなぁっ!!つーか、何で俺の好物知ってんだよ?」
「あー…じゃあそれも含めて今の冬獅郎ちゃんの状況を私なりに説明しましょう☆」
「…」

あれ…“冬獅郎ちゃん”もお気に召さなかったのかな。…まぁいいや。
少年漫画はたくさん読んでるし、単行本は一通り集める主義だから、きっと冬獅郎ちゃんの世界の話もあるはず。

「あったあった…冬獅郎ちゃーん!ちゃんとキャッチしてねー!」
「は?…おいっ!」

   バサバサバサ…
家の書斎にある本棚たちは、はしごを使わないと一番上まで届かない高さ。その、上から三つ目の棚に、“それら”はあったので、私は1から順番に下に落としていき、番外編や小説化したものだけを抱えて降りた。

「わぁ。ちゃんと全部キャッチしたんだね」
「………」

単行本を大量に抱え、もはや漫画タワーしか見えなくなったその向こうから、何やら怒りのオーラが伝わってくる気もするけれど、気にしない方向で。

「ねぇ、一つ訊きたいんだけど」
「あぁ?」
「(怒ってる…)君の身の周りで、一番最近起こった出来事と、どのくらい前のことか、教えてくれない?」

…ひっつん隊長はかなりお怒りのご様子だったけれど、ちゃんと答えてくれた。
ひっつん隊長の話によると、1ヶ月くらい前に藍染の件が片付いたばかりで、瀞霊廷の中もまだ慌ただしく隊長である自分がこんな所でわけの分からない状況に置かれていることに少し苛立っている…という無駄な感想まで聞かされた。

「ここに来たことに心当たりは?
変な穴に落ちたとか、事故に遭ったとか、十二番隊の変な薬を飲んだとか」
「………茶を…」
「お茶?」
「あぁ。…十二番隊の…「あ、OK。もういい」…」

うん。予想通り&べたすぎる。何これ。超ベタなんだけど。

「…あ、これは見ちゃ駄目ね。回収〜。あとは、全部読んでみるといいよ。自分の世界が読み物になっている気分、あとで聞かせてね」

今のひっつん隊長の未来にあたる、49巻以降を抜き取り、それ以下の巻数を押し付け、私はひっつんの客間を後にする。

「あ、おい!どこに行くんだよ!」
「え、自分の部屋だけど…?昼寝しに。一日中起きてるなんてムリ。だるくてやってられないわ。おやすみ〜」

   パタン。
ドアの向こうから何か叫ぶような声が聞こえた気がするけど、気にしない方向で。…あれ、なんかデジャヴ。まぁいいか。
廊下を歩きながら久し振りに開くシロくんの世界を目で追う。
ちょっと忘れかけてたからね。必要最低限、使えそうなことは思い出しておかないと…。
…それにしても…

「面倒くさいなぁ…トリップってやつ?どうすればあっちの世界に戻してあげられるんだろう…。マユリン何してくれてんの、もー!!」

愚痴りながらベッドにダイブする。
あぁ…ベッドふわふわ…。お昼寝最高。
読みかけの「カラブリ」に指を挟んだまま3時間ほど爆睡した私は、今度は起こしに来なかったシロくんを見に再び客間へ行ってみた。

「…あれ、シロくんも寝てんじゃん」

片手で単行本を持ったまま(親指はちゃんと読みかけのページに挟まっている)、机に突っ伏して寝息を立てているシロくんは、子猫の時と負けず劣らず可愛らしい。
…こうして寝ていれば、年相応で可愛いのに。眉間に皺なんて寄ってるから、無駄に老けて見えるんだ。ちっちゃいくせにさ。

「…誰がちっちゃいって?」
「あ、おはよう」

眉間を突いていたら、腕を掴まれてしまった。
しかもまた口に出ていたらしい。やばい、殺される。…と思ったけど、持って来ていた甘納豆を上げたら大人しくなった。よかったよかった。


(やっぱり“チビ”は禁句なのね)