8.傷痕を隠す包帯
…冬獅郎が虚に斬られ、別の虚が私に手を伸ばしたとき…
「月牙天衝っ!!」
…黒い斬撃が、私の周りにいた虚を一掃した。
「優衣!無事か!?怪我は…「…ぃ…お願い…冬獅郎を、助けて…っ!!」
駆けつけてくれた黒崎くんの、初めて見る黒い斬撃に驚くのも忘れ、私は血だらけの冬獅郎を抱き締めて泣きながら叫んだ。
「冬獅郎が…死んじゃう…っ…助けて…黒崎くん、助けて…っ!!」
「…黒崎サンに治癒能力はないッスよ。…井上サン、日番谷隊長をお願いします。黒崎サンはアタシと一緒にあの大虚を倒しますよ」
黒崎くんにしがみ付く様にして泣き叫びながら、腕の中の冬獅郎の体温がだんだん下がっているような気がして、私は後悔と絶望で目の前が真っ暗になっていた。
少し困惑していた黒崎くんと私の背後に、いつの間にか立っていた、帽子を被っていて時代遅れな恰好をした男の人と、明るい髪色の女の子。
女の子の方は、見覚えがあった。確か…井上織姫ちゃん。
「…冬獅郎を、治せるの…?」
帽子の人と黒崎くんが、空に開いた黒い大きな穴へと向かって行き、その場には井上さんと私だけが残った。
「大丈夫だよ。心配しないで」
恐る恐る尋ねた私に、井上さんは安心させるかのように穏やかに微笑んでそう言った。
…冬獅郎をそっと地面に寝かせ、井上さんの出した結界のようなものに包まれて傷が治って行くのを見届けると、体中の力が抜け意識が遠ざかって行くのを感じた。
…冬獅郎…。
…目が覚めたのは、見覚えのない和室の布団の中でだった。
隣には黒崎くんが座っていて、私は気を失って数時間眠っていたこと、冬獅郎は別の部屋で眠っていること、私の服に着いた冬獅郎の血を井上さんが綺麗にしてくれたことを教えてくれた。
…私の所為で、傷つけてしまった。もうこれ以上、大切な人が私の所為で傷つくのを見たくない。
私は黒崎くんに冬獅郎の元へ案内してもらい、冬獅郎の寝ている布団の横にそっと座って手を握った。
「…ごめんね、冬獅郎…私の所為で、怪我させちゃって…。…もう、これ以上見たくないの。冬獅郎なら…分かってくれる、よね…?………さよなら、冬獅郎…」
冬獅郎の額にキスをして、私はその場所を出た。
「帰るなら送ってくぜ。一人で居たら、あぶねぇだろ」
「…でも…、」
「俺は雑魚虚になんか負けねぇ」
…泣いている顔を見られたくなかったけれど、腕を掴んで引き止められてしまった。
私と一緒にいたら、黒崎くんも怪我しちゃう。…私の思考を読んだのか、黒崎くんはきっぱりとそう言った。
「俺は虚になんか負けねぇ。どんなのが来ても、絶対に優衣を護ってみせる。…覚えてるか?前に、好きだって言ったこと。俺、本気だから………優衣が俺を好きじゃなくてもいい。でもせめて、好きな奴を護りたいんだ」
「………っ、」
振り向かされ、見上げた黒崎くんの瞳は真っ直ぐに私を射抜いていて、私の傍に居てくれると言った、いつかの冬獅郎を思い出させた。
「………どう、して…?どうしてみんな、私を護ろうとするの…?どうして…私の心までは護ってくれないの?…どうして私には…大切な人を護る力がないの……っ私は、いつも…護られてばかりで……誰のことも、護れなくて…ッ……もう、こんなの嫌ぁ…!!」
「…優衣…」
…道のど真ん中で散々泣いた私は、少し落ち着いたところで黒崎くんに手を引かれてマンションに戻り、部屋まで付いて来てくれた黒崎くんにしがみ付く様にして、再び泣き叫んだ。
黒崎くんは、私の背中を黙って撫でてくれた。
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