「銀ちゃん」
「あー」
「…」
「…?」


ジャンプ読んでたら由芽に呼ばれたから、返事をしたのに、その次の言葉が無い。



聞き間違い?

もし俺の聞き間違いだったとして、由芽からしてみたら、急に俺が一人で

「あー」

とか言ったことになる。


…おいおい恥ずかしいじゃんそれ
地味に恥ずかしいじゃんそれ




チラ、と視線だけ由芽の方を見ると、由芽がじっとこっちを見ている。









…聞き間違いじゃんこれぇぇぇ!!
絶対聞き間違いじゃんこの空気!!!!


「…あー、腹減ったなー」
「…」


ごまかせた?
ごまかせた?!

これごまかせたんじゃない?!



「…お昼食べたばっかりなのにお腹すいたの?」
「えっ、あぁ、小腹すいたってやつ?
 ほら、デザートとか。
 パフェとか食いてぇなぁって」
「パフェねぇ…」
「…最近食ってねぇし?」
「あぁー、そうかも」



また、チラと由芽を見たら、由芽が天井へ視線をやりながらそう言った。


なんとかごまかせたらしい。



「ねぇ銀ちゃん」
「あー?」
「…」
「…」
「……」
「…え?今呼んだよね?
 今のは呼んだよね?
 俺の聞き間違いじゃないよねぇぇぇ?!」
「うん、呼んだ」
「なんだよ驚かせんなよ 俺がおかしくなったかと思うだろ」
「ってかさっきも呼んだ」
「おいおいさっきのやり取りどうしてくれんの
 ほんとにパフェ食べたくなっちゃったでしょ」




で、なんだよ

と、俺はジャンプを閉じてソファーに座り直して由芽を見た。




「あのね、銀ちゃん」
「…おぉ」


銀ちゃん、の、ちゃんが少し震えてることに気がついた俺は、なんだか嫌な予感に、気持ち的に後退る。


ソファーに座ってるから出来ないけど。

逃げてぇなーくそ。


頭ん中でいろんな最悪なことを思い浮かべておく。



次の言葉はなんだ?



他に好きな人が出来たの。別れて

ギャンブラーは嫌いなの。別れて

天パに堪えられないの。別れて

加齢臭に堪えられないの。別れて



って俺そんなに臭くねぇよォォォォ!!!!

ちくしょー天パの何が悪いんだバカヤロー!!!!





「…ストパーかけるから」
「え なんの宣言?」
「…なんでもない。で?」
「う ん、あの ね…」



由芽がなにやら緊張していて、その雰囲気が伝わってくる。


茶化して逃げたい、けど、由芽が真剣なので、俺も覚悟を決める。




「うわー、何て言えばいいのこれ?!」


テンパる由芽に俺は思った。


あ もしかして。



由芽の頭に手を乗せて、ガシガシと撫でてやる。


そうしたら由芽は一瞬泣きそうに顔を歪めて抱きついてきた。


しっかり受け止めてやると、由芽は俺の背中に腕を回して、一度深呼吸をした後、俺の目を見据えた。




「銀ちゃん、子供できた」
「おぉ」
「…」
「誰の?」
「…!!!!」
「冗談…痛っ、冗談だって」




笑いながらキスをすると、未だ腕の中で暴れる由芽の腕を掴んでもう一度キスをする。



「そりゃ、お前の子は俺の子だよなぁ」
「…わかんないよ?」
「うわー可愛くねえなぁ、そういう女だったのお前」
「冗談だって、」
「じゃぁちゃんと言えよ
 紛れもなく坂田銀時と朝井由芽の子供ですって」



クスクス二人で笑いあう。
こういう時は、感動して泣くもんかと思ってた。

立派な親父に、俺はなる!!

とかっつって。

だけど…



「実感ねぇな。こん中に居るのか?子供」
「うん、私自身まだあんまり信じられないけど…
 でも、居るんだよ、赤ちゃん」





由芽が『子供』ではなく、『赤ちゃん』と愛おしそうに言うと、なんだかくすぐったい。



早くもこいつは母親として何かを感じ、すごい勢いで成長しているのかもしれない。



「…あー、こんなことなら昨日ヤっとくんだったな」
「ちょ、銀ちゃん何言ってんの?!」
「んだよ、今更恥ずかしいことねぇだろ」
「聞いてるよ、この子が!!」
「いいじゃん、俺とお前がそういうことしてこいつが出来たんだから」
「そうだけど…」
「父ちゃんと母ちゃんに感謝しろよー
 って、ホントに聞こえてんのかよ」



由芽の腹に向かって話しかけて、なんつーベタなことしちまったのかと恥ずかしくなって、ごまかす。



父ちゃんと母ちゃん、だってよ




うわぁ、恥ずかしいぃぃ!!




「大丈夫、聞こえてるよ、だって銀ちゃんの子供だもん」



優しく、優しく微笑む由芽は、もう母親の顔だ。

母親を、俺は知らねえけど、そう思った。



母親の顔だ。
強くて優しい、どこにでもいる、母ちゃんの顔だ。



俺はガシガシと頭をかいた。



「…神楽ちゃん達にも報告しなきゃね」
「あぁ、そうだな」
「この子は幸せだね。
 神楽お姉ちゃんも、新八お兄ちゃんも、下にはおばあちゃんも居る。
 家族がいっぱいだね」
「…あぁ、そうだな」
「立派なお父さんも居るし、ね?」
「…あぁ。そうだな」
「銀ちゃん、父親の顔、してるよ?」



ハッと由芽を見る。
俺が、父親の顔?



「強くて優しい、父ちゃんの顔、してるよ」



…母は強し、と言う。
こいつは母親になった途端、急に強くなったようだ。



誰の?

俺じゃねぇ、俺の子の、だ。



不安はたくさんあって、俺が親なんかできんのか

とか

でも由芽が、必死に母ちゃんになろうとしてんだ。


立派な父ちゃんになれるかなんてわかんねえけど、それなら俺は必死で由芽と、由芽の腹ん中の俺達のガキを守んなきゃいけねぇ。



そしたら俺も立派な親父になれるかもしれない。




立派な親父に、俺はなる!!!


なんつってな。













(…西●屋でも行くか。
 ほ乳瓶いるだろ)
(まだ早いよ、先にたまひよ!!)
(それも行きゃあるだろ
 ほら早く暖かいかっこしてこい)
(はーい)




手を繋いで、準備をしよう


産まれてくるのを、父ちゃんと母ちゃんは待ってんぞ






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