「ふっくちょー!!」
「ぅっわバカお前…っ」

私が大好きな副長の背中に抱きつくと、副長は慌てて手元の紙をグシャグシャと丸めて、私の頭を殴った。


「…っ、ガツンっていったガツンて…!!」
「てめぇがいきなり出てくるからだろうが」
「だって好きなんだもん」
「『だもん』じゃねぇよ『だもん』じゃ」


おかげで書き損じただろうが

と、副長は先ほど丸めた紙を屑籠に投げ入れたけど、それは籠の縁に当たってポロリと畳に落ちた。

それを拾って捨てようとすると、私の手を遮るように副長が拾って、自ら捨てた。

最初からそうすれば良かったのに。


「…何書いてたんですか?」
「なんでもねぇよ…今日の仕事の書類だ」
「捨てちゃダメじゃないですか」
「あああ漁るな!!いいんだそれは!!書き直すから!!捨てとけ!!」
「…そんな書類のために私は殴られたのか。」


女の子なのにー と、副長の腰に腕を回す。
今度は副長は殴らなかった。


副長の背中に耳をつけると、心臓の音が聞こえる。
他にも、血が通る音や、何かが消化される音。
コポコポキュルキュル、ドクドク、音がする。

生きてるんだなって感じて目を閉じた。



「…ほら、仕事行け朝井」
「もうちょっと…」
「…ったくお前は…」
「副長だって嬉しいクセにー」
「バカ言ってんじゃねぇよ」



そんな憎まれ口叩きながら、強引に離そうとはしない副長。

そんな副長の広い背中にギュッと抱きついたら、副長が後ろに倒れてくる。


「ちょ…潰れる…!!」
「潰れろ」
「それジャンプのテニスマンガのキャラのセリフ…!!」
「俺はマガジン派だ」


クスクス笑いながら耐えるけど、副長がムキになって体重をかけてくるから、耐えきれずに二人で畳に倒れ込んだ。


「おい朝井、いい加減仕事行け。
 …こんなとこ総吾に見られたらめんどくせぇだろ」
「…はぁーい」


私は渋々副長から離れた。
もっとくっついてたかったのに。

副長は私が来た時みたいに私に背を向けて、机に向かっている。



ふと屑籠に目をやると、さっき副長が捨てたんであろう紙の一部に

『由芽』

らしき文字を発見した。「…副長…」
「なんだよ、まだなんかあんのか」
「…そんなに私のこと…」
「あ?お前何言って…っておいぃぃぃぃ!!!!」



私はさっき副長が捨てた紙を広げて、ニヤリと笑った。


「バッカお前…返せ由芽テメ何勝手に見てんだ!!」
「やだ副長ったら、プライベートの時の呼び方になってますよ?」
 コレは私のせいで書き損じたんで私が預かりますね」
「意味わかんねぇよ!!由芽…朝井!!いいからそれを渡しなさい!!」
「イヤです。では私は仕事に行ってまいります。」
「バ…待て由芽!!」
「早く仕事行けって言ったのは副長ですのでー!!
 行ってきまーす!!」



私は丁寧に紙を胸元にしまいながら走って部屋を出る。


「ふふふっ」


私は紙が入ってる所に手を当てて
仕事頑張ろ
なんてガラにもなく考えた。


「よっ色男」
「……」
「なんでぃ無視ですかい。さすが彼女大好き男は違うねぇ、男の俺は見えないとみえる」
「…うるせぇこうなるからイヤだったんだちくしょー」
「仕方ねぇでさぁ、落書きには無意識が出ちまうもんですからねぇ
しっかし…休憩中だったとはいえ、ボーっとして彼女の名前紙に書いちまうなんて…
すげぇや土方さん、思春期の心を忘れず生きてんですねこの厨二病!!」
「さりげなく貶してんじゃねぇよ!!」
「まぁまぁ、このこと由芽のヤツ、心底嬉しそうに話して来たんでさぁ」
「……っ…そうかよ」
「だから今俺は激しく不愉快なんでぃこのバカップル。
 ってなわけで
 死ね土方」
「はぁぁぁぁ?!!」




チュド──────ン


















─────

実は、私が沖田さんにひとつだけ言ってないことがある。


紙に書かれた私の名前。

だけどその紙のすみっこにはこんな文字もあった。


思春期の子供かよ、なんて思いながら、ぐらりと歪んだ文字が、とっても嬉しかったのも事実なので、素直に喜んでおく。








“土方十四郎”
“土方由芽”








「…いつプロポーズしてくれるのかなー…」

「由芽…てめぇ…」
「わっ、副長どうしたんですか?!!敵襲?!!」
「お前のせいだ!!」
「えぇぇ?!!」







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