「休みの日に好きな人のところに行って何が悪いのよー!!」

由芽ちゃんは道のど真ん中だというのに力いっぱい叫んだ。


「だから、その相手が問題なんだよ!!」
「何よ!!素敵な人じゃない!!ちょっと天然さんなだけよ!!」
「ちょっと天然さんなだけの人間は警察に追われるようなことしないでしょ!!」
「勝手に追ってるのは退君達でしょ!!」


まるで猫のように俺に威嚇し続ける由芽ちゃんは、なんとかして俺から逃れるタイミングをさがしている。

「ねぇ…由芽ちゃん、お願いだよ、今日は隊長達が桂のところに突入する予定なんだ。
 君が危ない目にあうかもしれないのに、ここを通すわけには行かないよ」
「沖田さん達が…?なら尚更早く桂さんのとこに行かなきゃ!!退君、どいて!!」
「ダメだよ!!」
「なんでよ!!どいてよ!!」
「嫌だ!!」


俺だって、日頃から訓練している。
隊長達には勝てないけど、一般市民の女の子を易々と通すわけにはいかない。

…副長に殺される。




由芽ちゃんは、攘夷志士の桂に片思い中の女の子。とても笑顔が可愛くて、素直でイイ子だ。



もともと万事屋んとこの神楽ちゃんと仲が良かったらしく、旦那を訪ねて来た桂に一目惚れしたらしい。

だから俺も何度か逢うことがあって、その素直さと輝かんばかりの笑顔に惹かれた。



だけど由芽ちゃんの想い人の桂を追う俺ら真選組は、悲しいことに由芽ちゃんの敵でもあった。



「なんで邪魔するの退君!!」
「君が好きだからだよ!!」
「…!!」



由芽ちゃんはピタッと動きを止めて、目を見開いた。


「…俺が真選組だからとかじゃなくて、由芽ちゃんが好きだから、危険な目には合わせられない」



心臓が飛び出そうなくらいドキドキしていたけど、自然と心は落ち着いていた。




「俺のこと嫌いになってもいいよ。それでも俺は…由芽ちゃんを危険な目に合わせたくない。
 ココを通すわけにはいかにゃい」




噛んだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!



人生の中でTOP10に入るくらい重要な場面で噛んだァァ!!
今結構イイ雰囲気だったのに!!
うわぁぁぁん俺のバカ!!!!



「…退君…」
「残念だが、彼女が危険な目にあうことは無いな」



声がした方を見上げると、屋根の上に桂が立っている。

コイツいつの間に…



「この桂小太郎が真選組などに捕らわれると思ったか」
「桂さん!!」


由芽ちゃんが一気に笑顔になる。
ぱぁぁ って効果音がつきそうなくらいだ。「桂…」
「彼女を巻き込むような真似はしない」


桂はフッと微笑む。
あぁ、普通にしていれば確かに格好いいのに…


「この俺が真選組に捕まることは無い…
しかし確かに俺と行動を共にすることは多少なりとも危険を伴うだろう…」
「そりゃテロリストと一緒にいれば危険だよ」
「もう!!ホントにアンタは屁理屈ばっかりなんだから!!」
「お母さんンン?!!アンタいつから俺のお母さんになったの?!!」


桂は少しムッとしながら、まったく、とかなんとか言っている。

ムッとしたいのは俺の方だ。


「ともかく、だ。
 危険だとわかっていながら、由芽殿を近くに置くほど俺は愚かではないぞ」



桂は、依然屋根の上からニヤリと笑った。
由芽ちゃんはさっきからポカンと俺らのやりとりを見ている。



「…俺はやっぱりアンタのこと捕まえるよ」




だってそれは、桂も由芽ちゃんのこと好きって言っているようなもんじゃないか。








「かぁぁつらぁぁぁ!!!!」
「いかん、見つかったか」「そりゃそんな目立つ所にいりゃぁね」


沖田隊長が大砲をぶっ放す。
完全に俺らも巻き込む気だ。


「…彼女を頼む」
「桂、」
「さらばっ!!」

桂がどこかへと走り去る。


「桂さん!!」

由芽ちゃんがその後を追って走り出す。


「由芽ちゃん!!」
「…退君…」



由芽ちゃんが悲しそうにこちらを見る。

そんな目で、見ないでほしいなぁ。






「…俺はやっぱり、桂を捕まえるよ」




由芽ちゃんは黙ったまま俺をまっすぐ見ている。




「捕まえて、自分の手で由芽ちゃんを守れって、言ってやる」




俺の想いは届かないのに

由芽ちゃんを守る役目を俺にさせるのは、酷ってもんじゃないか??







「…退君…」
「行きなよ、隊長の大砲に巻き込まれるよ?」
「…ありがとう、退君」



由芽ちゃんは少し無理やり笑顔を作って、桂を追った。





「山崎、なにぼやぼやしてやがんでぃ」
「すみません!!桂はあっちです!!」
「よし、追うぞ!!」
「はい!!」







俺はギュッと手を握ると、全力で一歩を踏み出した。

絶対捕まえてやるからな、桂!!








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