「…ただいま…」
「た…ただいま…」




沈んだ声で居間に入ってくる二人を見て俺はジャンプを閉じ、新八を部屋の隅に引っ張るとコソコソと話しかけた。





「おまっ…話しが違うじゃねぇか!!ただいまじゃねぇよ全然元気になってねぇじゃねぇかぁぁぁ!!」
「そんなこと言われたって仕方ないじゃないですか!!
っていうか元はと言えば銀さんがいけないんでしょ!!」





新八に言われ、俺は口を閉じた。


新八のくせに、偉そうなことを言っているコイツに腹は立つが、今回ばかりはコイツが言ってることに違いはねぇ。



「あんたが小学生みたいにネチネチ由芽さんいじめてるからこんなことになっちゃったんでしょうが!!」
「…うるっせーなわかってるからお前に託したんだろぉぉぉ?!!」
「僕はやることはやりましたから。あとは銀さん自分でどうにかして下さいね!!」





新八はそう言うと、ソファーに座ってため息を吐いている由芽に優しく話しかけた。





「由芽ちゃん、小腹すかない?
僕ちょっと何かつまめる物つくってくるから、寛いでてよ。
3、4時間ゆっくりしててよ」



そう言った新八は声の優しさと裏腹な視線をこちらにギロリと向けてくる。



ちょっとつまめる物作るのに3、4時間かかんねーだろぉぉぉ!!
だったらもうコンビニで買ってこいよ!!
完全に二人きりにするつもりだよコイツゥゥゥ!!






由芽に優しく微笑みかけた新八は、小声で

「大丈夫だよ」

と言って居間を出ていった。






一瞬にして部屋の中はシンと静まり返って、時計の秒針の音だけが響く。



居心地の悪さを感じ、頭を掻くと、由芽が不安そうな瞳でこちらを見ていた。




ついさっきまでは、こんな表情はしていなかったのに。





俺はふぅと息を吐くと、由芽の隣にドカッと腰を下ろした。
その反動に由芽はびくりと肩を揺らし、膝の上に置いた両手をキュッと握りしめている。


そんなに緊張しなくたって、別に取って食やしねぇのに。





由芽が、俺に好意を持っていることは知っていて、俺のことをキラキラと見つめてくる瞳に満更でもない気分だったことは否定しない。



だけど、由芽が俺に惹かれてんのは、依頼人としてちょっと面倒なトラブルに巻き込まれた由芽を助けた俺に対する吊り橋効果的なアレであって、由芽みたいな若い女ならすぐに俺のことなんざ忘れて、そこいらの普通の男つかまえてよろしくやんだろうと思っていたのに。




それがいつの間にか、由芽が銀さん銀さんと駆け寄ってくるのが可愛くて仕方なくなったのは、俺だ。


だけどそれを素直に表せる俺じゃなくて、情けないが新八の言う通り素っ気ない態度を取り続けてきたのもやっぱり、俺だ。


日頃からあまり相手にしていないような態度をとっていたから、どの言葉に、どの態度に由芽がこうなっちまったのかわかんねぇ。

だから墓穴掘らないようにとりあえず新八が


「僕が気分転換に連れて行ってきます!!」


と連れ出したはいいものの、帰ってきてもこのザマだ。


新八のヤロー、やるって言ったなら確実に由芽を元気にして帰ってこなきゃ意味ねぇじゃねぇか!!






「由芽ちゃんよー」
「な…なんですか」
「俺が嫌いかい?」
「…!!…き…嫌いじゃない…です…」
「そーかい。そりゃ良かった」
「銀さんこそ…」
「ん?」




隣の由芽を見ると、相変わらず小さな両手をキュッと膝の上で握りしめて、俯いている。


さらさらした髪をじっと見つめていると、由芽は小さな声で

「…銀さん…私が嫌いなんじゃないんですか?」
「…あ…えーっとだな…それは…」
「嫌いなら、嫌いってはっきり言ってくれた方がいいです」




そう言った由芽は、今にも泣き出しそうな目で、だけどきっ、と俺を強く見た。


頬が紅潮していて、俺は思わず、




「ふわぁ!!」
「…あー…わり…」




由芽の頭を抱き寄せた。



「ちょ、銀さ、」
「あー、何だっけ?俺がお前を嫌いか?
んなわけねぇよ、こんな感じだよ、わかっか」





抱き寄せた由芽の耳を、俺の胸に当てる。
そしてどさくさに紛れて由芽の背中に腕をまわし、少し近づいた。





「…なんか言えよ」
「…ドキドキ…」
「してんだろ?」
「いや、私が…」
「お前がかよ」



プッと笑うと、由芽が躊躇いながら俺の背中に腕を回した。

ただ、そんなことで



「…由芽ちゃんよー」
「なんですか…」
「襲っていいかい…」
「…………ぅ…」
「ちょ、何いっぱいいっぱいになっちゃってんの!!
可愛いから!!ヤバいから!!
もうダメ襲います誰が何と言おうと襲います」
「…!!やだ、銀さん新八君がいるし…!!」
「大丈夫あいつ後3時間くらいつまめる物作ってっから」



いっぱいいっぱいなのは、いい歳こいて、俺です。




「〜〜〜っ、でも今はダメっっ!!」
「ゴフッ!!」
「あっ、銀さんごめんなさい!!」
「…いい拳をお持ちで…」




ヒリヒリする左頬をさすりながらソファーに座り直す。

そうだな、女の子にはいろいろ準備が必要だものな。急にはダメだな、うん。

「…銀さん…あの、えっと」
「あ?」


あの、その、えっと…
と、もぞもぞする由芽の顔を覗き込むと真っ赤になっている。



「今はちょっと、ダメですけど、その、」
「…うん」
「いつか…そのうち…ね…?」
「……う、ん」



もじもじボソボソとそう言った由芽は、やはり顔を真っ赤にしてギュッと目を瞑っている。

バカ、こいつ、ホント…


「由芽ちゃんはもうちょっと男心を勉強しなきゃダメだな…」
「ふ、え?」
「…襲います」
「ちょ、銀さぁぁぁん!!!!」












(その後台所から飛んできた神楽ちゃんと新八君に跳び蹴りくらったんだよね)
(違いますぅ、銀さんが当たってあげたんですぅ)
(はいはい、負けず嫌いなんだから。ねぇ?)
(ちょ、俺にもお腹の子に話し掛けさせろよ!!)
(ママですよー)
(パパですよー)











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