憂鬱だ。


なんで今日は晴れてんだ。
ここは空気読んで曇りとかになってくれないと私の気持ちと釣り合いがとれないじゃないか。




いつもは晴れてないとテンションが上がらない、とか言っているくせに、自分勝手な私は、気持ちとは裏腹な天気に苛立っている。

…否、苛立っているというよりは先ほどのように憂鬱、と言うべきか。

気分がどよんとしている。


そしてやはりいつも通り騒がしい教室に無言で入った。


カバンを机の横のフックに引っかけて、まるで仕事終わりのサラリーマンが帰宅した時みたいに椅子に腰かけた。



「はぁぁぁ」



何人かの友達が、親父っぽい、と余計な一言を加えてあいさつしてくる。


「疲れてんだよお父さんは」


と、どこの父親でもいいそうなセリフをつけて私もあいさつ。



こうした下らない会話で少しだけ浮上する私は、単純だろうか。





「今日の小テスト、どうよ?」
「え、何それ」
「え、柚芽聞いてなかったの?!」



ポカンとしている私のことを憐れみを込めた目で見つめた友達は、


「あぁ…柚芽寝てたもんね…」


と呟き、他の友達も同様の視線を私に送った。



ちょっと待て友よ、そういう視線はいらないから、説明してくれ。




「私てっきり銀八に呼び出された時言われてると思って何も言わなかったんだけど…
 今日国語漢字の小テストだよ」
「なんですとぉぉぉ?!」




私が叫ぶと、あぁ…とやはり憐れみの視線を向けてくる友達数名。




ちょっと待て友よ、そういう視線はいらないから、


「テストの資料くれ…」
「どんまい」










「よぉー無駄な足掻きしてっかガキ共ー」



およそ教師とは思えないことを言いながら扉を開けた教師に、教室には非難の声が飛び交った。


「先生来るの早いー!!」
「まだ時間あるよね?!」
「先生問題教えてー」
「んだよ休めよ銀八ー!!」



だが私はそれどころではない。


「おいおいお前ら、先生だって人間ですよー
 傷ついただろー

 今しゃべったやつ−10点だコノヤロォォォォ!!!!」



一層うるささを増す教室の中、ひたすら漢字を暗記していく。私は漢字が苦手なんだ。


「チャイムなるまで待っててやるから、勉強しろ勉強」


(なら空気読んで遅れて来てくれれば良かったのに)

いや、そんなことより漢字を覚えなくちゃ


「ほらほらチャイム鳴るまであと1分だぞー」
「ちょっと先生焦らせないでよー!!」


(ホントだよ、最悪な教師だよ)



いや、そんなことより漢字を覚えなくちゃ



だけど、昨日の出来事が頭でリフレイン


ドクン と心臓がびっくりしたみたいに動いた。

かぁっと顔が熱くなる。


ちょっと待てって私、そんなこと思い出してないで漢字を、



でも、もうペンは進まない。

視界が歪んできたよ、手も、心なしか震えてる。




その時、いつものようにチャイムが鳴った。



キーンコーンカーンコーン…




「はい、じゃぁ筆記用具以外全部しまえー」


ガヤガヤと諦めの声が上がる中、銀八先生はペタンペタンといつものようにスリッパを鳴らしながらテストを配っている。


少し顔を上げて先生を見たけど、先生は私の方なんかちっとも見てなくて、いつもの先生だった。






そうだ、いつも通りなのだ

私以外の全ては。



では一体私は何が変わってしまったんだろう。






前の席の子がプリントを腕だけで渡してくる。


顔を見られなくて好都合だと、私も後ろに腕だけをまわしてテストを配った。



涙をこらえたせいで鼻水が出そうだ。


ぐすん、と鼻で息を思い切り吸う。





なんで、なんで私がこんな思いしなくちゃいけないんだ。




「はい、じゃぁテスト開始ー」





時計の秒針が動く音と、シャーペンがカツカツ、シュッシュッと紙の上を滑る音しか聞こえない。

きっと、私以外のみんなは。





私はそれプラス、頭がガンガンするほどの心臓の音が聞こえている。




ただ、なぜか脳の中で少しだけ冷静な部分が、テストに向かう手を動かさせた。



さっき勉強したからか、私にしては少しは書けたと思う。


わからない問題はそのまま放置して、シャーペンを投げ出す。



とりあえず50点くらい取れればいい。





深く重い溜め息を吐いてふと顔を上げると、目があった。



もちろん銀八先生と。





目が合った銀八先生は、しばらく私をなんだかわからない表情で見ていて

そしてその後、ふ と微笑んでみせた。




かぁっと顔が熱くなる。
と同時に涙がまたググッと目頭に集まり、鼻がツンとした。
心臓は早鐘を打つし、なんだか隠れてしまいたい衝動にも駆られた。




顔をゆっくり下げたら、変に力が入っているのか、私の首はギギギ、と音を立てそうに不自然に動いた。




呼吸が乱れた。
はぁはぁと浅く息をした。
草影に隠れる草食動物にでもなった気分で小さくなった。





まだ先生は私を見ているんだろうか?


そう考えたけど前を見る勇気なんて無かった。







それより先生の笑顔が頭から離れなかった。


あんな表情、ズルい。
なんであんな顔するの?



そう思ったら、ついに涙が小テストの上に落ちてしまった。
ポタッと音を立てて落ちた涙が紙に染み込まないうちに、指で急いで拭ったけど、ほんの少しシワになってしまった。





そのシワを見て、さっきの先生の顔が頭をよぎって、思ってしまった。










あぁ、私、銀八先生のこと好きなのかもしれない。
























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