食べちゃいたいくらい好き、とは良く言ったもので、最近俺はそんな感情と常に戦っている。


由芽はまさか、由芽が無防備に晒している首筋を見ながら、美味そうだ、なんて俺が思っているなんて想像もしないだろう。

長い髪を一つに束ね、必死に問題集と向き合っている由芽の首筋は、無機質な蛍光灯の青白い明かりに照らされて、ただでさえ白いのにとても白く見えた。

そこから滑らかに続く線をたどれば、柔らかくほんのり桃色をした頬に辿り着く。


すべすべとして柔らかいそれは、いつまでも触っていたくなるほどだが、時折思い切り噛み付いてしまいたい気分にもなる。


しかし、自分がなぜそのような気分になるのかは不明だ。
俺に人を食する性癖はない。


「蓮二、どうしたの?」

由芽に声をかけられて我に返る。
ずっと見ていたせいで由芽の気が散ってしまったようだ。


「いや、なんでもない。お前は相変わらず色が白いと思っていた。」


そういいながら、由芽の頬に手を伸ばす。
人差し指の背でそっと撫でれば、まるで猫のように、由芽は心地よさそうに目を瞑って俺の手に擦り寄る。


そのまま押し倒してしまいたい欲望を、由芽の首筋に顔を埋めてなんとかこらえる。


「本当に、どうしたの、蓮二、なんかいつもと違う?」
「…お前が可愛すぎて、抑えられなくなりそうなんだ」
「ちょ…」
「これでも大分我慢しているんだぞ」


由芽の首筋で囁いてやると、由芽がかすかに体を震わせる。

「これでも俺も健全な思春期の男だ」
「蓮、」

由芽の言葉を遮って、唇を塞ぐ。


柔らかく、暖かいその唇に触れるだけのキスから、徐々に噛み付くようなキスに変わる。



「は、蓮二、私を食べる気?」
「あぁ、そうしてしまいたいな」


くすくすと由芽が笑う。
冗談だと思っているようだが、残念ながら俺は半ば本気だ。

いや、この言い方では語弊がある。

食べてしまいたい、というのはいわば、一つになってしまいたい、ということだ。

いやらしい意味では無く、少しも離れていたくない。
一つの存在になってしまいたい。


そんな事を言えば、きっと由芽はまたくすくすと笑うだろうから言わないが。


「蓮二、好きよ」
「あぁ、俺もだ」

由芽が、俺の胸に頭を預けるようにして抱きついてくる。
そしてすっと顔を上げると、俺の首元にチュ、と音を立ててキスをして

「あぁ、好きすぎて噛み付いてしまいたい」

と言った。

その言葉に俺は

「…あぁ、俺もだ」

としか返せず、由芽が俺と同じ気持ちになったことに満足した。
俺たちの気持ちは、最初から一つだった。

そして俺は我慢する事をやめて、由芽の首筋に噛み付くようなキスをした。








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