身長差にドキドキすること、ありませんか?





隣を歩いている蓮二君を、チラリと盗み見る。

と言っても、視線を蓮二君の方に向けただけでは蓮二君の顔を伺い知ることはできない。


そう、私の彼はとっても背が高いのです。



中学3年生ともなると、だんだん男女で体格差が出始めるものだけど、蓮二君はすでに男子の中でも群を抜いて背が高い。


私は平均的身長だと思うのだけど、蓮二君が大きいので私が小さく見えてしまう、と、ショーウィンドーのガラスに映った私達を見るとそう感じる。




「由芽、」



ス、と私の肩に手を置き、さりげなく自分が車道側を歩く。


一体全体、この人はどこでこんなことを勉強してくるのだろう。



絶対、他の男子ならこんなこと気がつかないと思う。
そういうところが子供なんだ、他の男子は。


いや、蓮二君のこういうところが大人、なのかな。

いつもいつも感心する。
男子より女子の方が精神的成長は早いというけれど、こういう人もいるんだ。



そしてこういう気遣いができる人を、
「もう、男子ったらホント子供なんだから!!」
と、男子より少し大人になった気分の女の子達が好きにならないわけはない。



私だってその一員だし、実際蓮二君はとてもモテた。




もちろんあの、テニス部レギュラーだってことは大きいだろうけれど。




「他に買い物はいいのか?」
「うん、この間蓮二君が教えてくれた本買えたし、大丈夫。
蓮二君は?」
「俺も目当ての本の購入はすんだ。
名残惜しいが、暗くなる前に帰ることにしようか」
「うん」




話がまとまると、蓮二君はごく自然に私の手を握った。



いわゆる恋人繋ぎ、というやつに、私はいまだにドキドキしている。

だって蓮二君の手は大きくて、『私と手を繋いでいる』というよりは『私の手を包み込んでいる』感覚に近い。



暖かい蓮二君の手をキュッと握ると、蓮二君もそれに応えるように手を握り直した。


それだけでドキドキしてしまう。
顔がにやけてしまいそうになるのを必死でごまかして、駅に向かった。









キィー…と長くブレーキの音を響かせながら、電車がゆっくりと目の前を通過して、やがて止まる。


「少し混んでいるな」
「ホントだね」


プシュー、と音をたててドアが開き、ぞろぞろと人が降りていくが電車内の人数はあまり変わらないように思えた。

ドアのすぐそばに空いた狭い空間に、順番に乗り込んでいく。


その時さりげなく蓮二君が手を引き、私を先に電車内に乗せた。

そして発車ベルが鳴り終わるころ、蓮二君が私を包むように手を回しながら電車に乗り込む。


そして電車はガタンと音を立て、ゆっくりと動きだした。





今までの一連の動きに、私は驚いて蓮二君の顔を見上げた。



なんだかとても大切にされているような、特別な扱いをされているような気分にもなったし、それより自然に流れるように今の動作をやってのけた蓮二君に、この人は本当に同い年なのだろうかと思った。




「口があいているぞ」



クスっと笑った蓮二君が少し俯いて私を見る。


狭い車内で密着しているから、蓮二君と私の顔の距離は近い。

蓮二君の顎先に私の顔があるようなかたちになって、私の心臓はまたドクンと音を立てた。


恥ずかしくなって目を伏せると、目の前には蓮二君の広い胸があって、ほのかに香のいい香りが漂ってきて、なんだか頭がクラクラした。


よく電車でイチャイチャしているカップルを見かけて、正直別に構わないけど、二人きりの時にすればいいのに、とか思っていた。

でも、なんとなくそんなカップルの気持ちがわかってしまった。
ような気がした。


広く大きな胸。
引き締まった筋肉。
私の目線よりも高い位置にある広い肩。
私の体を支える鍛えられた腕。
ほのかな香の香りに混じった、蓮二君の香り。



全てに引き寄せられる。
抱きついてしまいたい。
もっと、近くに・・・


まるで催眠術でもかけられたかのように、私の体は蓮二君にぴたりとくっつく。

あぁ、心臓の音がうるさい。



額をゆっくりと蓮二君の胸に預けるようにつけると、私の背にまわっている蓮二君の腕に、ほんの少し力がこもったのがわかった。


もしかして蓮二君も緊張していてくれたりするのだろうか…もしそうだとしたら、とても嬉しい。


キュンキュンと胸が締め付けられるようで、思わず溜息が出てしまう。



車内が混んでいるせいか、少し背中が汗ばんでいる。


「由芽は、本当に小さいな」
「え?」


蓮二君の突然の言葉に少し戸惑う。



すると、蓮二君は私の耳に口を寄せて、私にしか聞こえないくらい小さな声で囁いた。



「かわいい」



グッ、と心臓が小さくなって、叫び出したいくらいの感情が身体を支配して、私はまた顔を蓮二君の胸にくっつけて耐えた。


背中にじっとりと汗をかいているし、顔は暑いし、手にも汗をかいている。


あぁ、私、今ならもういつ死んでもいい…!!




「由芽、耳が真っ赤だぞ」
「…う、うん…」
「ふっ、やはり由芽はかわいいな。
小さくて、思わず守りたくなる」
「…!!」





また耳元でそんなことを言われて、蓮二君の息が耳にかかって、言葉が出ない。
心臓が大きく動きすぎで目眩がしそうだ。




そしてやっと最寄り駅に着いた。


蓮二君が腕で私を庇いながらゆっくりと駅におりる。

慌ただしく改札へ向かう人の波に押し流されそうになりながらも、必死に蓮二君から離れないように小走りでついていく。


時折蓮二君がこちらをチラリと振り返り、心配そうにする。
私が手を伸ばそうとした時、ドン、とぶつかられて、私と蓮二君の間に人が流れ込んだ。


あ、と思った時には蓮二君との間にはたくさん人がいて、もう手が届く距離ではなくなってしまった。


階段に人が殺到している。
どうやら大人達の帰宅ラッシュの時間に重なってしまったらしい。

ひしめき合うように階段を上がっているせいで何度か転びそうになって、思わず私は階段を一段一段目で確認しながら歩く。


ふと顔を上げると、さっきまで蓮二君がいた場所に彼はいない。

急に迷子の子供の気分になって、小さく呼ぶ。

「蓮二君…」

まわりを見渡すと、彼はすぐに見つけることが出来た。
だって、サラサラの黒髪が、人波から少し飛び出していたから。

すると蓮二君も私を見て微笑んだ。
こんなにたくさん人がいるというのに、誰にもぶつかることなく私の元に辿り着いた蓮二君に

「よくすぐに私を見つけられたね」

と言うと、

「当たり前だ。俺が由芽を見つけられないわけがないだろう」

と自信満々で言った。

「蓮二君は、」
「「背が高いからすぐわかったよ」」
「……」
「と、お前は言うだろうが、俺は身長など無くてもすぐに由芽を見つけられるぞ」


そう言って、ふ、と笑った蓮二君に

「どういうこと?」

と聞いても、蓮二君はさぁな、とごまかすだけで教えてくれなかった。


そしてまた蓮二君の大きな手を握って、

「ねぇ、どういうこと?教えてよー!」

と、私は視線よりずいぶん高い蓮二君の横顔を見上げるのだった。











(そんなの、お前だけ誰よりも鮮やかに俺の目に映るからに決まっているだろう)








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