「うぅ…」
「なぁにメソメソしてんだよ赤也、鬱陶しいからやめろぃ」
「丸井先輩ひどい!!
 可愛い後輩がこんなに悲しみに打ちひしがれてるのに!!」
「はぁぁ?全っ然かわいくねぇよ。
 どうせ失恋だろぃ?」
「な、なんでわかるんスか?!」
「だってお前が『一目惚れしたっス!!』とか言ってたの…」
「悪いな、あいつは俺と交際中だ」
「柳先輩!!」



丸井と赤也が、コートのすみでストレッチをしながら彼女の話をしていたので、本来なら他人の話しに割り込むようなマネはしないが、俺にも無関係ではないと思い口を出した。



「知ってますよ!!
 っつってもさっき知りましたけど…」
「あーあ、ご愁傷様ぁ」
「丸井先輩!!」
「しょーがねぇだろぃ、こいつらバカップルだもんよ」
「相思相愛、と言ってくれ」
「うぅ…!!由芽先輩と相思相愛なんてうらやましいっス!!」
「…ふ…」




赤也が心底悔しそうに言うので、俺は少しの優越感と、由芽の笑顔を思い浮かべ、思わず頬を緩めた。
すると丸井は呆れたように笑うし、赤也は

「『…ふ…』じゃないっスよ!!」

と騒ぎだす。



3人それぞれがガタガタとロッカーを閉め、荷物を持って部室を出た。



すると、まだブツブツ言っている赤也の顔が一瞬パァっと笑顔になったと思いきや、それはすぐに曇る。
しかしそれは俺も例外ではなく、予想していなかった光景に眉をひそめた。




「あ、みんなお疲れ様」
「…プリ」
「仁王…珍しく先に一人で帰ったのを見たが…」
「さーんぼう、顔怖いぜよ
 そんな顔してたら可愛い可愛い彼女に嫌われるんじゃなか?」



相変わらずの仁王の挑戦的な態度に、ムッとしながらも無表情になるよう努めた。




「仁王先輩ズルいっスよ!!
 俺も由芽先輩と喋りたい!!」
「赤也君、部活お疲れ様」



そう言って、由芽は駆け寄った赤也に花びらが風に揺れるようにふわりと柔らかい笑顔を浮かべた。

そんな由芽に顔を赤くしながらも、赤也は由芽の小さな手をガシッと握りしめ、言った。

「由芽先輩!!
 なんで柳先輩なんスか?!
 何考えてるかわかんねーし、目は開いてんのか閉じてんのかわかんねーし、身長差あり過ぎだし!!
 確かにテニスはすげーけど…
 それも俺がいずれ追い抜くし!!」
「おーい赤也、柳が開眼してっから!!
 こえーからそのへんにしとけって!!マジこえーから!!」
「参謀も浅井の前じゃ参謀でなくなるんじゃのぅ…
 のぅ、浅井?」



俺を見ながらクスクス笑う仁王は、由芽の肩に親しげに腕を回した。
それに苛ついた視線を向けると、由芽の手を取って仁王から離す。

俺が由芽の肩を抱いて引き寄せると、由芽は俺の腰回りに腕を回し、軽く抱きつくようにしながら不安げに俺を見た。
まるで子犬が飼い主の顔色を伺っているようである。



彼女はそんな彼女の仕草が俺をひどく落ち着かせることをわかってやっているらしいが、しかし心からの行動でもある、という、なんとも質の悪い性格でもある。


俺はこれだから彼女を手放せない。
そんなつもりは毛頭ないが。




やはり仁王はククッと笑いながら、


「えぇもん見れたし、俺は帰るぜよ」



と言って歩き出した。



時々、仁王はこうして俺をからかう。
からかうだけなら良いが、仁王はとても由芽を気に入っている様子を見せることがあって油断ならない。

それも計算のうちかもしれないが…





「蓮二」
「あぁ、すまない。大丈夫だ」
「先輩達ホントにバカップルなんスね」
「相思相愛、だ」
「相思相愛、よ、赤也君」
「声揃えて言わなくたって!!」



由芽は苦笑いをしながら、赤也の頭をポフポフと撫でると、

「赤也君、ごめんなさい
 ありがとね」

と言った。


「な?バカップルだろぃ?
 浅井は柳のこと大好きすぎるから新しい恋でも探せって」
「うぅぅぅー!!」
「あーもー、なんかおごってやっから!!行くぞ!!仁王も待ってるし!!
 じゃーな、柳!!浅井!!」
「おごりっスか?!丸井先輩太っ腹ー!!」
「誰が太いって?!」
「いって!!褒めたのに!!なんで殴るんスか!!」





「…元気だねぇ」
「そうだな」



由芽はふふ、と笑いながら丸井と赤也を見送り、そしてまた俺の顔を見上げた。



思わずちゅ、と軽く口づけると、照れたように


「もう…外なのに…」


と頬を染めて、由芽はブツブツ言いながら俺の手に指を絡めた。




「お互い様だろう
 さっき仁王達がいる所で腰に手回したのは誰だ?」
「嬉しかったくせに」
「それこそお互い様だろう」
「あーぁ、また言い負けちゃった。
 私達も帰ろ?」
「あぁ」



俺は由芽の細い指に指を絡め、しっかりと握ると、もう日が沈んでしまった道を歩き出した。











(くそー!!絶対柳先輩に勝つ!!)
(あーがんばれがんばれ)
(すいませーん!!ポテト一つ追加で!!)(俺も唐揚げ追加ナリ)
(仁王には奢んねーからな!!)
(…プリ)








「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -