好みのタイプは計算高いタイプとかなんとか言ってたような気がするが、一言言わせてもらえば
『好きなタイプ』と『実際好きになる人』ってのは往々にして違うもんなんだぞ!!!!
「それは無意識下で妥協していたり、周りからの意見などによって惑わされている可能性があるからではないのか。
好きなタイプでないほうが、付き合った時別れる確率が低い、というのなら、好きなタイプと実際好きになる人は違う方が良い、と言われればそうかもしれないが、それを俺に主張することによってお前は俺に何を伝えたいんだ?」
「お互い様ってことだよ早く気付けバカ」
私がズッパリ柳のことをバカ呼ばわりしたものだから、部室でガヤガヤ騒いでいた丸井達が静かになった。
もちろん当の柳は眉根を寄せて不機嫌丸出しにしている。
「…バカ呼ばわりされる謂われはないが」
「あっそ。ならいつまでもわかんないフリしてればいいじゃない
赤也、帰ろ」
「えっ?俺?なんで急に俺なんスか?」
「私の好みのタイプだから」
淡々と口にしたのに、赤也は
「えっ、俺先輩の好みなんスか?!!」
と、ぱぁぁって音がしそうなほど喜んでついて来た。
今までの話しを聞いていなかったんだろうか
いや、柳ですら気づいてない…
『気付かないフリをしている』のだから、赤也がわからなくても無理はない。
あまりに純粋で、そして犬みたいに可愛らしいので、頭を撫でてやると赤也は
「でも…」
と呟いて柳をチラリと見上げた。
柳は相変わらず眉間にシワを寄せて私を不機嫌そうに見ているが、私は逆に柳のその態度に腹がたっている。
頭良いくせにバカなんだから、柳のバカ。
私は無言で赤也の手を取って部室を出た。
と、思ったのに、赤也の手はスルリと私の手から抜け出した。
びっくりして振り返ると、柳が勢いよく赤也の手を引っ張っているじゃないか。
柳は勢いで倒れそうになった赤也を体で受け止めて、そのままポカンとしている丸井の方に肩をトン、と押した。
そうして私を体でグイグイ押すようにして部室から押し出した柳は、後ろ手で部室の扉を閉めると、すぐに私の右手首を掴んでクルリと回った。
私はダンっ、と音を立てて背中を扉にぶつける。
痛くはなかったけど、流れるような柳の動きに少し驚いて目を見開いた。
自由だった左手首も柳に掴まれてしまって、身動きがとれない。
端から見たら私は柳に襲われているように見えると思うのだけど、大丈夫なのかしら柳君?
「…何よ」
「…お前は間違っている」
「何が」
「お前の狙いは、俺に言わせることだろう」
「…何を?」
「あくまでシラをきるつもりか」
柳の眉間がまたグッと寄った。
それと同時に掴まれている手首にも力がこもる。
「らしくないじゃない、柳が熱くなるなんて」
私がそう言うと、柳はフッと小さく息を吐くように笑って、いつもは見ることのできない、その瞳をスッと開いた。
背中から鳥肌がたつ。
それは一瞬に身体中に広がって、私はゴクリと喉をならした。
不快からくるものではなく…
歓喜?畏怖?
いや、言葉では言い表せない、柳の何かが私をそうさせた。
「俺らしい、とはなんだ?」
「は…?」
「お前の思う『俺』は、感情的にならず、何事も理論的に考え、理性的に行動する男、か?」
「……」
私は柳の問いに答えず、柳が何を言いたいのかを必死に考える。
そうして、どう返すのが一番有効なのか。
あいにく私は柳のように理論的、理性的ではなく、尚且つ柳の好みの『計算高い』女ではない。
逆に感情的で、考えるより先に行動するタイプだと思っている。
だから柳の頭脳に勝てる見込みはないけれど、負けず嫌いの私がこの勝負だけは負けられないと、素直になることを許さない。
「どうした?先程からお前こそ『らしくない』な?
『感情的』で『考えるより先にやってみる』お前が、何を考えている?」
「…手首が痛いなぁ、って」
「そんなはずはない。データ上お前は手首に怪我していないし、俺はほとんど力は入れていない。
振り払わせはしないがな。」
「……柳は、本当にバカだよ」
なんだかんだと言いながら、力をほんの少しだけ、緩めたくせに。
「…浅井…お前は勘違いをしている」
柳はそう言うと、私の左手から手を離し、そっと頬に触れた。
なんだ、その顔は。
柳のくせに、そんな顔するなんて、なんて、なんて切なそうな、苦しそうな顔するのよ。
「俺はお前が思っているほど『理論的』でも『理性的』でもない。
ことお前に関しては特にだ。」
「何言って…」
「そしてお前は自分で思っているほどそんなに『単純』でも『感情的』でもない。そういう部分はあるが、な」
柳の大きな右手が、私の頬をやんわりと包んだ。
柳の熱い体温が伝わってくる。
「…お前の言葉を借りるなら、『お互い様ってことだよ早く気付けバカ』、だ」
柳はまたフッと笑った。
その笑みが、優しくて。
柳の指が私の頬を、耳を撫でる。
淡々とした口調でいながら、柳の言動が、体温が熱くて、私はもう柳がわからなくなってしまった。
いや、あぁ、そうだ、きっとわからないフリをしていたのは私で、本当は柳はこういう人だって知ってた。
だから、
「たしかに俺は『計算高い女性が好み』だと言った。
お前は自分では自分のことをそう思っていないかもしれないが、そうであればお前は俺をこんな風にさせていない」
「わかりやすく、言って」
私は私の頬にある、柳の熱い右手に、自由になった左手を重ねた。
「断る。悪いが俺も負ける気はない」
「いじわる」
「お互い様だ」
「…じゃぁ…引き分け、ね?」
私は微笑む柳の薄い唇に口づけた。
(なになに?丸井先輩どういうことスか?!!)
(だからーお互いタイプじゃないと思っていながら、ホントはタイプに当てはまる部分があることを認めてて…
あーめんどくせ、つまり両想いってことだよ)
(えっ由芽先輩俺のこと好みって言ったのに!!)
(決着ついたところでそろそろドア開けようか、帰れないし(ニコッ))
(…幸村君がお怒りだ…!!)
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