慣れた手つきで、由芽はミルクティーを作った。


彼女曰わく、

「今日はミルクティーな気分」

だそうだ。



ほとんどの場合、俺に合わせてなのかもともと好きなのか、由芽は緑茶や玄米茶を入れては、楽しそうに湯のみに注ぎ、その美味しさに微笑む。


それがたまにこのように、紅茶を入れたり、ミルクティーをつくったり、コーヒーを飲んだりする。



それを選ぶ基準はやはり気分、らしい。




「蓮二も飲む?ミルクティー」
「いただこう」



もっぱら緑茶好みの俺は、もちろん今でも緑茶が好きだし、お茶請けも和菓子の方が好みだ。



だが、たまに由芽のつくる紅茶や、甘さ控えめのクッキー、ジャム

そういった物も、以前より口にする機会が増えたからか、なんの抵抗もなくいただくようになった。


しかしそれはもちろん、
“由芽が作ったから”
“由芽が好きなものだから”

という理由にも他ならない。




由芽がどういった気分の時に何を飲みたくなるのかは、目下観察中である。「はい」
「ありがとう」


ふんわりとほのかに甘い香りのミルクティーが、俺の前に置かれる。



「…アッサム、だったか」
「すごい、正解」


彼女は目を丸くして驚いた。


以前出してくれたミルクティーと香りが一緒で、たまたまその時聞いた紅茶の名前を覚えていた。


「よく覚えてたね」
「好きな女の好きな物くらい、把握しておかねば、この柳蓮二の名が廃るというものだ」



大袈裟、と笑う彼女に俺も笑って、カップに口をつける。



甘ったるくない、柔らかなミルク独特の甘味に包まれるようだ。

そしてふんわりと紅茶の香りが華やかに鼻孔に広がる。



目の前で満足そうにミルクティーを飲んだ由芽を見て、まるで彼女のようだと思った。


柔らかくて、ほんのり甘い。



俺はカップを置くと、横に座っている由芽にキスをした。



まるで俺がキスをすることをわかっていたように、全く照れも動揺もしない彼女は、目を細めて、それは美しく微笑んだ。



少し年上の彼女



余裕綽々、ということか


彼女は立ち上がると、控えめにJazzをかけ、俺の横に座って言った。



「カフェみたいでしょ?」
「そうだな」
「あら、蓮二ってカフェ行くの?」



クスクスと笑う彼女がからかうように言った。


俺は何も言わずに、由芽にもう一度キスをする。

角度を変えて、音を立てて、何度も、触れるだけのキスをする。



由芽が、腕を俺の首に回そうと少し動いた時あっさり離れると、由芽はもの足りなさそうに俺を見つめた。



「俺が、好きだろう?」
「なによぅ…突然…」


自信満々に言ってやれば、少し不満そうだった由芽は口を尖らせた。


「「今更、」」
「…と、お前は言う」



更に俺が勝ち誇ったように由芽の声に重ねれば、由芽は更に唇を尖らせて俺を睨んだ。



こういう表情をする時、彼女が年上なんだということを少し、忘れそうになる。

そして可愛くて可愛くて、強く抱きしめてしまいたくなる。


でもそうしてしまったら、まるで焦ってしまっているように見えそうで

余裕に、見せたい。


年下なんだと感じさせたくない。




努力では埋まらない、俺達の、差。





「好き、だろう?俺のことが」


再度、同じ問いを、今度は耳元でしてやると、由芽は滑らかな白い頬を桃色に染めて頷いた。






嗚呼、抱きしめてしまいたい。
隙間が無くなるほど抱きしめて、肌に唇を寄せて、由芽の柔らかさに、暖かさに、身も心も溺れてしまいたい。



その衝動を、由芽の髪を撫でることで抑えつけた。


がっついては、いけない。



「蓮二」
「なんだ」


普通に返すのは、この言葉で精一杯だった。

頬に添えた手の親指で、滑らかな、熱を孕んだ由芽の頬を撫でる。



「私は、例え柳蓮二の名が廃れる時が来ても、蓮二がミルクティー大っきらいになっても、蓮二が好きだよ」



そう言った由芽に、ついに我慢しきれなくなった俺は、彼女を彼女のお気に入りのふわふわしたカーペットに押し倒しながら言った。



「案ずるな、この柳蓮二の名が廃れることは、無い」











(由芽が俺を好きでいてくれる限り
俺は由芽の好きなものを把握し続けるということなのだから)








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