バチンっ!!


「っ…!!」


突然のことに私が顔を上げると、珍しく雅治が驚いた顔をしていた。

左手を右手で包みながら、目を丸くしてこちらを見ている。



「…雅治…??」


何が起こったかいまいち理解していない私は、読んでいた本に栞をはさんでテーブルに置いた。


「…、」
「どうしたの?雅治?」

左手にケガでもしたのかと、雅治に聞くと、


「大丈夫、静電気、みたいじゃ」
「静電気…」



空気乾燥してるしね、と納得する私に、雅治ははっとして


「…由芽、痛くなかったか…?」


と心配そうに言った。


「うん、私は全然…」
「なら、いい」


ホッとした様子の雅治に、ふと疑問が浮かんだ。


「…雅治、私に触ろうとして、静電気来ちゃったの?」


私がそう言うと、雅治はバツの悪そうな顔をした。


「…プリ」
「…何しようとしてたの?」
「…秘密ナリ」
「なんでよー」




私がズイッと雅治に近寄ると、雅治はまた

「ピヨ」

と誤魔化す。


「雅治のいぢわる」


私はいじけたフリをして、お気に入りの白いふわふわのカーペットに寝転んだ。

手触りがとても気に入っている。


そうしてチラッと雅治を見ると、雅治も私の隣にコロン、と転がってくる。



天井を見つめている雅治の肌は白い。
銀色の髪がカーペットに散らばって、白いカーペットと同化してしまいそう。

まばたきする睫毛が長い。
首筋が色っぽい。



キュンとする。


見ているだけで、好きだと思える。
ずっと見ていたい。




触りたくなった。
白い頬に、柔らかい唇に。



ゆっくりと手を伸ばす。







バチンっ!!




「っ痛、」
「…!!」


雅治が、私が触れかけた頬を押さえた。
私の右手も通電の衝撃をジリジリ感じている。


「ごめん雅治!!」


思わず起き上がって雅治の肩に触れようとする

が、


バチンっ!!

「いった、」
「由芽??」



今度は、痛かったのは私だけらしい。



「せ、い電気めぇぇ…!!」


私が忌々しく声を出す。

これでは雅治に触れたくても触れられない。


まるで電気のバリアがお互いに張り巡らされてるみたいだ。


触ろうとするとお互い傷ついてしまいそう。


なんて、たかが静電気で大袈裟かもしれないけど。




そう思っていると雅治が

「お前さんも俺と同じことしようとしたんか」

と苦笑した。


もし、さっきの雅治が私と同じ気持ちだったとしたら

同じように愛しくて愛しくて触れたくなったとしたら



嬉しい、というか、幸せで泣きたくなってしまう。


私は雅治に抱きつきたくなった。



だけど


「ストップ!!」
「うぅ〜〜〜っ!!!!」



雅治が私を止めた意味をすぐ理解する。


地味に痛い思いはもうしたくない。




「…由芽」
「…何?」
「…このカーペット、何製じゃ?」
「…ちょっと待って」



まるで『だるまさんが転んだ』みたいに、雅治の「ストップ!!」から動いていなかった私達。


雅治の問いに、私がゆっくりと動く。



角をペラリと捲ると

「…ポリエステル100%…」


という私に、雅治も渋い顔をする。



「静電気溜まる素材代表格じゃな」
「…うん…」
「はぁ…」


雅治は、大きくため息をつくと、


「由芽、手、洗ってきんしゃい」


と言った。


「なんで?」
「水を溜めて、そこに手を入れると放電できる、らしい」
「そうなの?」



雅治はポリポリと頭をかいて


「…触りたいのに触れんなんて、堪えられん」

と言った。




私がすっくと立ち上がって階段を駆け下りたのは言うまでもなく。


そんなの、そんなの私だって一緒の気持ちだ。




私に続いて階段を降りてきた雅治はクスクスと笑っていた。



「冷た…」


肌が切れそうなほど冷たい水に手を触れると、雅治も横から水に手を触れ、そのまま、のぞき込むようにキス。



電気のバリアは、本当に水に溶けて流れてしまったらしい。


私と雅治の唇が、なんの障害も衝撃もなく触れたことにひどく安心した。






いくら公認だからって、リビングにお母さんいるのに

とか

手が痛いくらい冷たい

とか


いろんなことが頭を回る。

だけど、触れるだけの優しいキスに頭がクラクラする。




思考を手放そうとする直前で唇を離した雅治はまたクスッと笑って、水を止めた。



「これで、心おきなく触れるぜよ」
「…恥ずかしいことを…」



照れて視線を逸らす私の冷たくなった手を、雅治のやはり冷たい手が掴む。


そして手を繋いだまま、部屋に戻った。









「このまま離れなかったら、静電気たまっても痛くないかな??」
「…さぁな
(可愛いこと言うてくれるのぉ)
実践すればわかるナリ」
「じゃぁずっとくっついてようかな」
「なら、今晩は泊めてもらうとするかの」
「…本当?!!」
「…冗談ナリ。流石に今はまだ無理じゃろ」
「…ですよね…」
「(そんなにしょんぼりされたら帰りたくなくなるぜよ…)」









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