「俺もうすぐ誕生日なんだわ」


唐突に、丸井君はそういった。


「えっ、いつ??」
「明日」
「明日?!」


びっくりする私を、何個目だかわからないパンにかじりつきながら丸井君は

「おぉ」

なんて、平然とした顔で言った。


「まぁそういうわけだから春川、ケーキシクヨロ」
「どういうわけだかわかんないけどわかった」
「ショートケーキな!!!!」


ニカッと笑った丸井君
その手元では次のパンの袋が開けられた。






「…びっくりした」
「芽依、今丸井君につかまってたわね」



例によって昼休憩、B組に入って一直線に鈴音ちゃんの席へ向かうつもりが、その途中にある席の丸井君に呼び止められたのを見ていたらしい。


「どうしたの?」
「明日誕生日なんだって」
「そうなんだ」
「またショートケーキ、シクヨロだって」
「あらあら」

鈴音ちゃんはチラッと離れた席の丸井君と、目の前の私を見て

「ずいぶん仲良くなったのね」

と笑った。







次の日、ちょっと寝不足の朝を迎えた私は、大きくあくびをしながら学校へ向かう。


まだまだ風は冷たいけど、日差しはポカポカ暖かい。



右手に持っているケーキのことをふと考える。


急に言われたから放課後買い物にいったら、運よくとてもキレイなイチゴがあった。


ツヤツヤで真っ赤で、形も良くて、みずみずしい。


きっとこれなら丸井君も喜んでくれるだろうな、と胸を躍らせた。







学校に着いた私は、3―Bの前を通って自分の教室へ向かう。

ケーキはお昼に持って行くつもりだったし、きっと丸井君はまだ朝練してるはずだ。

そう思ってぼんやり廊下を歩いていたら、


「春川!!」

と声をかけられる。

「あ 丸井君おはよー」
「よっ。っつーかお前、何スルーしようとしてんだよ」

3―Bの後ろの扉から顔を覗かせた丸井君は、拗ねたように口を尖らせた。

視線はもちろんケーキである。


「お昼に持って行こうと思ってたから…」
「そんなの待ち切れねぇよ、俺ずっと楽しみにしてたのに昼まで我慢とか拷問だろぃ」


手招きする丸井君の席までケーキを持って行く。


「はい、お誕生日おめでとう」
「サンキュー!!」

丸井君の机にケーキを置くと、満面の笑みを返してくれた丸井君は、早速箱を開け始める。
「え ちょっと今食べるの?」
「おー、もう朝練で腹減って死にそうなんだよ…
 スゲー!!うまそー!!」


ケーキの箱を開けた丸井君の目がキラキラと輝いた。

そんな丸井君を見て達成感を感じると同時に、ちょっと恥ずかしい。



なんとなく教室中に視線をさまよわせる。
…鈴音ちゃんはまだ来てないみたいだ。



チラリと丸井君に視線を戻す。
ケーキを見て、嬉しそうに笑う丸井君の顔を見てたら、なんだか私まで嬉しくなってきた。



「いただきまーす!!」
「あ!!丸井君!!」


丸井君は私が止める隙なく、ホールのショートケーキにそのままかぶりついた。


「丸井君顔にクリームついてるよ」


鼻にもほっぺたにもクリームをたくさんつけた丸井君を見て笑う。


「やってみたかったんだよなー、ホール食い!!
 うめー!!俺ほどではないけど、春川のケーキ作りの腕も天才的だろぃ」
「ありがとう」



自信作のショートケーキをすっごく誉めてもらって、なんだかくすぐったい。




「春川、マジサンキューな!!」


顔にたくさんクリームをつけたまま、赤くてフワフワな髪を揺らしてニカッと笑った丸井君は、やっぱりまるでショートケーキに乗ったイチゴみたいだ


と、以前のようにイチゴと丸井君を重ね合わせた。










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