待ちきれない。
黒板の上の時計を見た。
あの時計、1分遅れてんだ。
もうすぐチャイムが鳴る。
俺は急いでシャーペンを筆箱に放り込むと、教科書を閉じた。
それに気付いた先生が「まだ授業は終わってない」とかなんとか叫んだ時、いいタイミングでチャイムが鳴った。
「天才的」
っていう俺の呟きは、一斉に机を片付ける音にかき消された。
みんなも待ちきれなかったんだな、まぁ当然だろぃ。
俺が待ちに待った瞬間
弁当のフタを開ける直前、どこからともなくふんわりと甘い匂いが漂った。
この匂いは…生クリーム?
周りを見渡すと、少し離れた席に女子二人向かい合っていて、そこに小さなケーキを発見する。
俺の興味はあっさり弁当からそのケーキに移り変わって二人に近づいた。
いやもちろん弁当は食う。後で食うけど。
「なぁ、これどうしたの?」
どちらにということもなく話しかけると、二人の視線が同時にこちらへ動いた。
俺から見て右側にいた女子が
「…私が作った」
と、おずおずと手を上げた。
「ショートケーキ?」
「うん、ショートケーキ」
その女子の手作りだというそれは、キレイにデコレーションされていて、上に乗ったイチゴもツヤツヤと輝いている。
「うまそーだな」
「ダメよ、丸井君、それは芽依が私の誕生日プレゼントに作ってくれたんだから」
そう言ったのは去年も同じクラスだった睦月鈴音だ。そいえば右側の女子は知らない。
「俺、丸井ブン太。シクヨロ」
「あ 私、春川芽依。よろしく」
俺は、しゃがみこんで丁寧にデコレーションされたケーキを眺める。
「……」
「……」
「…あげないわよ?」
睦月が呆れたように言った。
「いいだろぃちょっとだけ!!」
「…じゃあ、これは鈴音ちゃんの誕生日プレゼントだから
また丸井君に食べてもらう用作ってくるよ」
「まじで?!」
俺がしゃがんだまま春川を見上げたら、春川は材料まだ余ってるから、と笑いながら頷いた。
こいつ、イイヤツじゃん。
それが春川芽依の第一印象。
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