「芽依、好きな人、できた?」
「え」


いつものように3―Bにやってきてお弁当を食べていると、まるで

「昨日の晩御飯何だった?」

って聞くみたいに自然に、でも突然、そんなことを鈴音ちゃんが言い出して驚いた。


「なんで?」
「なんとなく」

鈴音ちゃんはそう言うと、お弁当を食べながらにこりと笑った。



「…そんなこと、ないと思うけど」


我ながら曖昧な返事だ。

だけど、『好き』だなんて。



仲の良い男友達なら何人かいるけど…

彼らのことはみんな『好き』だ。


けれどそれが、今鈴音ちゃんが言っている『好き』とは違うこともわかってる。

でも、何が違うのかは、まだわからない。




「…そういう鈴音ちゃんは、好きな人いるの?」


私は話題を逸らそうとして鈴音ちゃんにそう言った。


「いるよ」


鈴音ちゃんはそう言うと、目を丸くする私にまた微笑んだ。


いつだか、体育の時に話をしたクラスメートと重なる。



鈴音ちゃんは、今まで私が見たことの無いくらい柔らかい笑顔だった。




そうか、だから鈴音ちゃんは私にあんなことを聞いたのかな

なんて考えながら、

「誰だれ?クラスメート??」

なんてありきたりな質問をする。



鈴音ちゃんに好きな人がいるなんて、全然知らなかった。




「まだ、内緒」
「えーなんでー?!」
「もう少し、ちゃんと好きになってからね」
「…?」
「芽依も、好きな人出来たら教えてね」
「…うん」




鈴音ちゃんが言っていることはよくわからなかったけど、それ以上は聞けなかった。




なんだか急に鈴音ちゃんが知らない人になったような

自分が取り残されたような気分になって、胸がジリっとする。


焦ったって仕方ないのに、私はまるで自分だけが子供みたいに思えて、焦燥感が積もっていく。






私は一人で勝手にいたたまれなくなって、鈴音ちゃんから目を逸らした。


教室を見渡す。


みんな、恋とかしてるのかな。



その時ふと、赤が目に入った。

丸井君だ、丸井君にも好きな人とかいるんだろうか。



丸井君は、誰かと話をしている。

丸井君に負けないくらい派手な髪の色をしている。


たまに見かける、銀髪の男子。
このクラスなのかな…




ふと、銀髪の彼がこちらをチラリと見て視線が合う。


にこりともせず、まるで何か物でも眺めるみたいにこちらを見ていた。



私はまたいたたまれなくなって視線を逸らす。



さっきからなんだか居心地が悪い。

今まではココが自分のクラスじゃなくても、鈴音ちゃんや丸井君や、他の仲の良い子達のおかげか、そんなに疎外感無かったのに。





「…どうかした?」
「えっ」


思いのほか少し大きな声が出てしまって、鈴音ちゃんが目を丸くする。


「なんかキョロキョロしてるから」
「あー、なんでもないよ。自分のクラスじゃないと、やっぱり雰囲気違うなって」


私がそう言うと、鈴音ちゃんは、あぁ…と頷いて辺りを見回した。



なんとかごまかせたみたいだ。


鈴音ちゃんに嘘をつくつもりはなかったけど、私の小さな子供みたいな感情を伝えてしまうのは気が引けた。



それに、鈴音ちゃんもまだ好きな人が誰だか教えてくれるつもりもなさそうだし。



「…もしかして、禁断の恋?」
「え?」
「好きな人が内緒ってことは、言えないような人とか…?」


私が小声で冗談混じりにそう聞くと、鈴音ちゃんは


「っやだ、そんなんじゃないわよー!!」


と、吹き出して笑った。


だよねー、なんて私も笑いながら、どこかホッとする。


なんだか鈴音ちゃんはいつも大人びていて、『禁断の恋』が有り得そうな気がしていた。


同い年の男の子では、物足りないような

もっと大人な人が似合いそう。





「違うの。好きなんだけど、まだ足りないの」
「足りない?」
「そう。まだ『惹かれてる』って言うのかな
もう少し好きになれば、自信をもって『あの人のことが好き』って言える気がするの」
「…へぇー…」



私はやっぱり、鈴音ちゃんの言うことがよくわからなくて、ぽかんと口をあけていた。





ただひとつわかったのは、やっぱり恋をすると女の子はキレイになるみたいだってことだけだった。










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