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「あー、すげえ動いたわ」

澄んだ空気がオレらを包む。
ぐいっと大きく伸びをしながらそう言った安形の横顔を見れば、夕日の効果でオレンジ色に染まっていた。二つの影が、長く伸びている。

「うん、明日は筋肉痛かな」
眉を下げて笑いながら、明日自分が腰やら足やらが物凄く痛くなるのが想像できた。体育祭というなんとも"スポーツの秋"を体感させるような行事で一日中日にさらけ出されていた顔は、日焼け止めを塗っていたのにも関わらずぴりぴりと痛みを感じていて 帰ったらケアが必要だと訴える。秋だからと言って、やはり気は抜けないものだ。
横から吹く秋風に靡いた髪を押さえながら、ずり落ちる肩紐を直した。

ちらりと横を見れば、ちょうど安形もこちらに顔を向けていて
ばっちり合った視線に、思わずオレから逸らしてしまう。赤くなった顔を隠す為に、両手で頬をぐにぐにと揉んだ。
ふ、とすぐ近くで微笑む気配がしたと思ったら、やはり安形が笑っている。何が面白いのか恋の魔術師榛葉道流でも理解し難かった。そんなオレを置き去りにして先に前を歩く安形を一睨みして追いかける。

そこで、無防備に体の横で揺れている手を眺めてみた。この手先にいつも翻弄されてると思うと、とてもむず痒い。憎らしさ半分、愛おしさ半分でそっとその指に触れた。

「…」
「はは」
どうした、とでも言いたそうな表情で俺を見る安形に笑みを返してゆるゆると中途半端な力加減で握ってみる。しばらくそんな調子で手を弄りながら歩いていると、上から声が聞こえてきた。

「ミチルって可愛いよなー」
「は?」
唐突にそう言葉を投げかけた安形に視線を向けた途端、強い力で腕を引かれる。気づいた時には目の前が真っ暗で、そこが安形の腕の中だと知ることには時間を要した。

「え、な、安形っ?」
「恋愛に関しては鋭いとか何とか言ってるくせに、オレといる時は小学生みたいなことするよな」
なんだあの中途半端な握り方、と補足するように耳のすぐ近くで囁かれる。その後すぐに解かれた拘束は、安形の手の平に俺の右手が閉じ込められる為の繋ぎだった。

「まあ、なんでもいいか。帰るぞ」
大きくあくびをかきながら、歩き出す。ぎゅっと力を入れて握られたそれは、無駄に温かくて 無性に安心した後、オレからも握り返した。頬に苦笑が上り、目の前の人の名前を呼ばずにはいられない。

振り返った安形に、この日一番の笑顔をおくった。


end



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