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「飴あるけど、食べる?」

鞄からがさがさと音を立てて取り出された袋には、のど飴という趣旨を伝える文字が大きく印刷されていた。両足の間にすっぽりと割り入って向かい合うように座ったミチルは、オレの首に手首を引っ掛けている。
ちゅ、と不意打ちで唇同士を軽く合わせてやれば、吐息を漏らすようにしてミチルが小さく笑った。


「…なんでのど飴?」
「安形、最近声枯れてるっぽいから」
帰りに買ってきた、ミチルの言葉に頷くとともに、その気配りに彼らしさを感じる。
確かに最近、喉の調子がよろしくないのだ。風邪の前兆かと思い構えていても、鼻水やら咳やらの症状はなくただ喉が不調なだけでずるずると一週間程が過ぎた。

「ほんとはもうちょっと早くに生姜湯とか淹れてあげられればよかったんだけど」
「そんなことしなくても、ほっときゃ治んだろ」
「油断は大敵だよ」
そーか?と軽く首を傾げれば、そーだよと返ってくる。むにむにとオレの両頬を指先で揉むミチルが可愛くて、もう一度キスしたくなった。
不純な気持ちを柄にもなく追い出そうと軽く咳ばらいをすると、大丈夫?と再び気を遣わせてしまう。このまま押し倒してやってもいいのだが、純粋に自分を心配してくれてるやつがいる手前そんなこともできないと、僅かながらに残った理性が呟いた。

「で、食べる?レモンとかなんかいろいろあるけど」
「ん、じゃあそれ、食う」
りょーかいー、なんて間延びした声で言ってオレの胸板に額を当てられたので、お返しにとふわふわの髪を梳きながら鼻をそこに押し当てる。ふわんと鼻孔を掠めたシャンプーか何かの匂いで、輪をかけてムラッときた。両脇に腕を入れて引き寄せられ、誘っているようにしか思えない。
(あーもうなんだコレ、すげえ幸せなんだが)

「はい、レモン」
「ん。……………食わせろ」
「えぇ?」
ひとりで幸せを感じていたところで、飴が入った小さな袋が手渡される。右手に乗った黄色に着色されたそれを見て、ふと悪戯心が顔を覗かせた。冗談だろと眉を下げたミチルに、有無を言わせぬように笑顔を見せた。

「食わせろって…ビニール開けて口ん中に放り込めばいいの?」
「…色気がない、却下だ」
「はあ?」
オレがミチルの意見を否定したことで、ミチルの整った眉の間が縮まる。怪訝そうに顔をしかめるミチルに、べ、と舌を見せた。途端に頬を朱に染めたかと思えば、呆れたようなため息が吐かれる。

「…舌……ですか」
「舌です」
「………頭いいくせになんでそんな馬鹿なこと考えるんだよ…」
ばか、と細い声を発しながらオレの首筋に埋められた顔面から、じわじわと熱が伝わってきた。ミチルからの香しい香りを嗅ぎながらさっきと同じようにして軽く髪を撫でると、今度はぐしぐしと鼻を擦りつけてくる。ああ可愛い。たまらん。

「ミチル、顔見せろ」
「え…………う、」
顎に指をかけてぐいっと顔を上げ、オレを瞳に映させる。羞恥からか今にも泣きそうな目が、上目遣いにオレを捉えた。
「…で?してくれんのか?」
「……オレにメリットがないから嫌だ」
「口移ししてくれたら可愛がり倒してやる」
「えー」

いくつかの言葉を交わした後、不満げに口を尖らせたミチル。今はうだうだと渋っていても、その気がないわけではないのだろう。もう一押しでなんとか丸め込めそうだ。

「喉が痛いだけとは言え、オレは病人だぞ?」
「だから何」
「言うことを聞け」
「とりあえず全く意味がわからない」
「………頼む」

若干弱ったような声色でそう言って形のいい唇に口づければ、ミチルはまたため息を吐いてオレに目を遣る。

「……じゃあ、目ぇ閉じて、口開けて」
「おし」
最終的には了解してくれたことに気をよくして、言われるがままに目を瞑り口を開け、ついでに舌を出した。舌はいらない仕舞えとそれほど憤ってはない声で言われたので仕方無しにそれを口の中に引っ込める。
目を閉じていると他の感覚が過敏になり、静かな部屋にミチルの息遣いとか衣擦れの音とかが浮き彫りになって聞こえた。

「……」
「…」
「…最初、は、慣らす感じで」
いくらオレから言われたからといっても、それは所謂ミチルが自分でキスをしなければならないということだ。普段は受け身のミチルは恥ずかしくてしょうがないのだろう。声を詰まらせた後に咳ばらいが聞こえた。


焦らすようなゆっくりとした動作で、唇が柔らかいものに覆われた。何度か啄まれ、次第に深いそれへと変わっていく。

「……ん…」
「…」
膝立ちになったことでオレより目線が高くなったミチルは、オレの頬に手をそえてキスを繰り返した。たまにミチルの髪の毛が垂れ下がって顔に当たりむずむずする。

不意に唇同士が離れ、どうしたもんかと薄く目を開ければ、ミチルが顔を真っ赤にしながら下を向いて飴が入ったビニールを開けているところだった。
ちらとこちらの様子を窺うその目には、恥ずかしいやらもっとしたいやら色んな意味が込められていそうで、ムラムラしてくる。
「……はー…じゃあ、いきますよ」
「予告しなくてもいいけど」
「…うん」

からんと口の中に飴を放り込み、スローモーションのようにミチルがオレに近づいてくる。なんだか物凄くじれったい。早くしてくれ。

再度合わさった唇に、緩く噛み付く。焦らすのもいいが、もっと積極的にきてほしい。
鼻から抜けるミチルの湿った吐息が妙にいやらしく聞こえた。絡んだ舌の上から飴が転がってきて、レモンの味がじんわりと広がる。

「…んー、……は…」
レモン味のそれをミチルに押し返しながら、ぐしゃぐしゃに髪を乱す。服をきつく握られ、もう一度飴を返された。喉のあたりがすーすーする。

「…んで返すんだよ、ちゃんと最後まで舐めて」
「わーってるよ」
呆気なく口から口へ渡ったのがつまらなくて、思わずしかめっつらになった。唇に舌を這わせてにやりと笑うと、もー、と照れたようにミチルも笑う。


「…喉がすかすかする」
「はは、しょうがないだろ」
今度はミチルの首筋に顔を埋めたオレの頭を、ミチルの手の平が柔らかく撫でた。


end


とりあえず

す  み  ま  せ  ん


口移しが私の中でブームだったところで、甘々でラブラブのリクエストきたので「ナイスタイミング!」と調子こいて書き出したらこんなことに…
でも楽しかったです(

キスとかは苦手な方もいるかと思うので、もしお気に召されなかったらこれは返品可です。
リクエストありがとうございました!



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