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オレは今、非常にイライラしている。



「そうなんだ、うん、うん」

ごり、と一度も染めたことのない黒い髪が生えている頭部を、半ば力任せに校舎の壁に押し付けた。オレから少し離れた場所でオレ以外に笑顔を振り撒いている恋人を見ていると、無償に腹が立ってくる。
深く言えば、ミチルに腹を立てているわけではない。毎日のように昼休みにミチルとともに昼食を取ろうと約束を取り付ける、ミチルに好意を寄せている奴らに当たり前に腹が煮えていた。…いや、それを断らずに易々と受け入れているミチルもミチルだ。

一週間前まで、昼にミチルの隣にいたのは、紛れも無くオレだった。食後にいちゃついて終わるというのが恒例だったオレらの昼休みを、どこかの誰かがミチルを誘ったことによってぶっ壊された。よーし、一週間限定で女の子たちとお昼を食べよう!とかなんとか言い出した馬鹿を見ながら、タンクを背もたれにして毎日のようにため息をついている。
ミチルがにこにこと笑っているのは可愛いから、見る分には楽しい。それがオレに向けられていれば、一層楽しいのだろうが、生憎その笑みはオレ以外の目に映そうと本人が振り撒いているわけで。そこはかとなく憤りが募る。

まあ、そんなのも今日で終わりだ。
休日は傍に置いて、腹いせと言わんばかりにずっとくっついててやる。

きゃっきゃきゃっきゃと騒ぐミチルの取り巻きを睨みながら弁当箱を箸でつっついていると、不意にミチルと目が合った。






「ということで、ごめんね安形」
「……は?」
その日の放課後、マフラーを巻いたミチルの隣で動きが制止した。帰路についてのたのたと歩いていたところで、聞き捨てならないことをミチルが吐いたからである。

「ミチルお前、今何て言った?」
「いや、だから……『女の子からの要望が多くて、来週も一緒に食べることになっちゃった』って。ごめんなー」
「訳がわからないんだが」
ふふ、と誇らしげな顔をして前髪をかきあげる仕草には、特に悪気はないのだろう。

「女の子に頼まれちゃ、オレとしても断れないだろ?」
「だからってお前、一週間オレがどれだけ…」

我慢したと思ってるんだ、紡ごうとしたその言葉は、ミチルの笑った顔を見て喉の奥に押し込めた。
100まであるとすれば、元は10程しかなかったオレの独占欲を、80にも90にも引き上げてしまうミチルが、心底憎たらしいと思う。

それ以上に、心底、愛おしいと思う。正直なところ、自分が考えているよりずっと、ミチルへの想いは質量がある。一週間、紫色のセーターの袖から伸びている華奢な指先にしか触れていない中、改めてそう思った。


前を歩き出したミチルの腕を掴んだと気づいたのは、それから少ししてからだった。

「安形?」
どしたの、と半笑いの不思議そうな顔でオレを見遣るミチルの両目を、空いている左手で覆う。え、は、なんてあからさまに戸惑いの声を上げたその口を塞ぐように、唇同士を合わせた。
合わせるというより、ぶつけるような形になってしまった。

「な、なに」
「妬く」
「えぇ?」
手を退けて、双方の目を合わせて、赤く染まった頬をぺちぺちと軽く叩く。事態を把握できていないみたいな顔をされても困る。オレは、急にキスしたい衝動に駆られて動いただけで、他になんの他意もない。
まさに、本能のままに、だ。


「人間にも動物にも椿とかデージーとかミモリンとかにも、…お前の周りにいるやつ、全部に、妬く」
「…」
「この一週間、超虚しかった」
口を金魚のようにぱくぱくと動かした後、より一層赤くなった顔を伏せた。戸惑っているとか、なんとか、困らせてるとか、そんなの気にしてやるか。

「あ、あが、…なんか、ごめん、」
「……べっつに、気にしてるわけじゃねぇけど」
「…虚しかったって、言っただろ」
「まーな。…それを知らずに二週目に突入とは、いい気なもんだ」
「う…」
ぐし、と意味もなく額を拭うミチルに、ふと囁く。


「全然お前に触れなくて、超ミチル不足」





意地の悪い笑みを浮かべて言った途端、着火したかのようにミチルから煙が出た。一段一段順を追って赤くなっていくのは、見てるだけで面白い。
ばっ、と耳を塞いだミチルが、震える声を出した。

「……………耳が、ちぎれる」
「は?」
「耳が、熱すぎて、ちぎれる」
「は、なんだそりゃ」
両方の耳を押さえるミチルの手の色がはっきりとわかるほどに、まだ日は高い。女子からの昼食の誘いを断るために、ミチルがどんな言葉を陳列させるのか、今から楽しみだ。


end



おぉ…ふっつー……にリクエストに沿えてないですね…
もう少し嫉妬してる感見え見えな感じで書きたかったんですけど…ね…

こんなんですが、お気に召していただければ幸いです。
この作品は秋桜さんのみお持ち帰り可能ですので、煮るなり焼くなりご自由にどうぞ。

リクエストありがとうございました!


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