season | ナノ


ほんの何日か前に気づいた10月最後のイベントは、日が暮れはじめた空と共に終わりを告げようとしている。

放課後、生徒会の全員で小さな催し物(とか言っても菓子を交換しあうだけのもの)を行った後、どうしてもと言うミチルを連れて家に帰ってきた。
無論、菓子を用意するのが面倒だったオレは 他のヤツらに文句を言われながら差し出される箱やら何やらを頂いたのだけど。

そんなことを思い出しつつ雑誌をめくっていると、安形、と部屋着の裾が引っ張られる。ぎゅう、と肩を引き寄せれば、小さな悲鳴が聞こえた。


れは、甘いお菓子


「あが、あの、オレこうゆうことしたいわけじゃ…」
そう言って背けられたミチルの顔をこちらに戻して、軽く唇に触れてやる。

「じゃあ、何?」
「は、ハロウィンらしいことをしようと…」
「さっきやっただろ」
うぅ、と赤い顔で唸りながら肩を竦めたって、はっきりと拒否しないのがミチルだ。しかし今回ばかりは流されまいと思い直したのか、しっかりと拒絶する態度を見せた。

「安形にお菓子もらってないし」
「あ?」
少し上目遣いが入った視線でオレを睨みつけた後、ふ、と口角を上げて手を差し出す。

「トリックオアトリート」


「……」
あまりにも子供じみた発想に、しばらくの間固まることしかできなかった。
固まったオレを不思議に思ってか、ちょっとちょっと、とミチルが肩を揺らす。

「安形、聞いてる?」
先程とは打って変わって、口を線のように結んだミチルがオレを見ていた。

「聞いてないことはない、が、なんだお前お菓子って」
「オレあげただろ」
「別にくれとは言ってねぇよ」
「えぇー、不公平だ」
ぺしぺしと俺の頬を叩きながら胸倉をぎゅー、と握りしめる。…誘ってんのかコイツ。
そこから少し身じろいで、鞄からミチルがくれたカボチャケーキを出し口に含んだ。

「ハロウィンはお菓子あげなきゃ悪戯されるんだぞ」
ぽつりと言葉が発せられた方向に顔を向ければ、次は口をへの字に曲げたミチルがいて。いくらハロウィンだからと言って、そこまでオレから菓子を巻き上げる必要はないはずだ。

「まあ、いんじゃねーの」
「………は?何が?」
「イタズラ。…こちとら何も用意してないし」
ひとつの提案を面白半分でしてみると、言葉の意味を察したのか 顔がみるみるうちに赤くなっていく。


「な、何言ってんだ!なんでオレがそんなこと…」
「あ?そんなことってどんなことだ?」
顔の前で勢いよく振られるミチルの右手を掴み、目の前にある双眼を眺めた。なんだよ、といつの間にか潤んでいた瞳は ゆらゆらと揺れ動いている。
そこに、意地の悪い笑顔の自分が映っていた。

「キスより甘い物はないかも、な?」

より一層深くなった笑みと共に、低く囁けば なんとも言えない顔をしたミチル。
明日学校あるからな、と小さく呟いたのを期に、菓子より何倍も甘い二人の夜が始まった。


end


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