season | ナノ


「あ、ミチルさん」

季節は秋。
ダラダラと長くに渡って続いた残暑は終わりを告げ、秋らしく涼しい風が吹き抜けた。涼しいというよりは、肌寒いと言った方が正しい気もする。
インターホンを何度か押した後、顔を出したのはサーヤちゃんだった。


れで十分


「やあ、サーヤちゃん」
キョトンとした顔で俺を見るサーヤちゃんは誰かと出かけるのか、オシャレで女の子らしい恰好をしている。

「お兄ちゃんいるから、どうぞあがって」
その場で突っ立っている俺に、笑顔で中に入るよう指示してくれる。それにうんと頷き、スケット団との約束があるからと言うサーヤちゃんを手を振って送り出した。

「お邪魔しまーす」
いそいそと玄関タイルの上で靴を脱ぎ、それを丁寧に並べる
安形が居間にいないことは何となくわかった。そのままの流れで見慣れた階段を上がっていく。

廊下の突き当たりにあるドアを軽くノックすると、どーぞ と短い返事が聞こえた。
カチャ、と音をたてて開けば、ベッドの上で悠長に雑誌を開いた安形がいて。

「よぉ」
ひらりと手を上げるその姿に、こちらも片手を上げて同じように返す。

「いやー、玄関でサーヤちゃんにあったよ」
何の気無しに言いながらその隣に座ると、んーと唸った安形に突然もたれ掛かられて倒れそうになるのを必死に堪える。

土曜日だというのにも関わらず朝早くに安形から掛かってきた電話は、暇な時でいいからとりあえず安形の家に来てくれというものだった。
何故だとか、理由は聞かなくても想像はできる。自分で言うのも恥ずかしいけど、
俺の誕生日だから、とか そうゆうのだと思いたい………です。
ああ、やっぱり恥ずかしい。


「暇な時でいいって言ったじゃねぇか」
「朝が早かったせいで、それからの時間ずっと暇だったんだから」
なんて言って、本音は"早く安形に会いたかった"ってだけなんだけど。まあ、そんなこと言える訳もなく
肩口に鼻を擦り付け甘えてくる安形の髪の毛をただ弄っていた。

「…で、なんで俺は安形ん家に呼ばれたか教えてもらっていい?」
「あぁ、今日ミチルの誕生日だったなと思って」
いつのまにやら人の太股に頭をのせてまた雑誌をめくり始めている安形に聞けば、それに視線を向けたまま答えるもんだから 雰囲気も何もない。
…面と向かって言ってくれれば凄く嬉しいんだけどなぁ。はは、と壁に苦笑を飛ばしていたら 下から声が聞こえた。

「そんで、お前にあげるのは何がいいかって考えた結果」
声の持ち主は、紛れも無く安形で。よっ、と体を起こし 真剣な、でもどこかふざけたような目で見られる。
突然目の前で着ていたTシャツを脱ぎだされれば、驚くのも無理はなかった。

「え、ちょっと…何してんの?」
安形、と呼ぶ前に視界が反転する。ギシリとベッドが軋む音が聞こえたと思ったら、俺の上で安形が馬乗りになった。
意味が解せずに疑問符を浮かべていると、安形の口元がニヤリと歪む。


「俺でも、いかが?」
ぴと、と俺の頬にのせた安形の手が物凄く熱く感じた。
熱が感染するように、じわりじわりと触れられている箇所も熱くなってくる。

「な、なんだよそれ…すっごい定番だな」
と少し顎を引いて言えば、人差し指に服の襟を引っ掛けた安形が額にキスを落とす。

「だめか?」
「っ、んー…」
つ、と顎を舌で触れられ、安形の肩に置いていた手が思わず反応してしまった。
安形がプレゼントとはいえ、結局俺がされる側なのだからそれはこいつの思う壷になってしまう。

瞼を下ろしてしばし考えた後、安形に視線を向けた。

「安形、ちょっと」
ちょいちょい、と小さく手招きをするとそれに従ってより近くに顔が近づくもんだから、心臓の動きが速さを増す。これを聞かれると大変困るなと思いながら、安形の両脇に腕をいれた。

「ミチル?」
背中に腕を回し、抱き寄せると 不思議そうな声で俺を呼ぶのが聞こえる。俺よりかずっと頑丈な胸板に顔を埋めれば、意味がわかったのか安形も俺を抱きしめた。


「俺はこうしてるだけで十分」
ふふ、と笑って言うと耳元で甘く低く名前を呼ぶ安形の声が聞こえ、体に回った腕に力をこめられる。

「理性飛ぶな、これは」
「飛ばすなよ」

故意に安形の足に自分のそれを巻き付けて、その人の体温を服の上から感じた。
今日は特にそうゆう気分でもないし、本当にこのままでいい気がしてくる。

「ミチルミチル、」
不意に名前を呼ばれて顔を上げれば、目の前にでかでかと安形の顔が映った。
ふ、と笑う姿に胸を打たれていると 再度口が開かれる。

「誕生日、おめでとう」


視界が暗くなったと思えば、そこはやっぱり腕の中。
ゆっくりと瞼を下ろし、より一層深く強くその胸板に頬を押し付けた。


「ありがと、安形」


end


(君といられれば)

(何もいらない)


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