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「…あ…雨、」
放課後の静かな空間に、その一言が落ちる。
いつもならまだ比較的高い位置にあった夕日は、今日は見えなかった。代わりに、空には厚い雲がかかっている。

完全下校の時刻まで後十数分、今日の生徒会活動も無事に終わって 帰り支度をしていた時だった。


雲の下


安形が呟いた言葉で、そこにいた全員が窓の外を眺めた。
一番はじめに口を開いたのは、小さなそこに手をかざしたミモリンだ。

「まあ、本当ですわ」
「天気予報では雨は降らない予定だったと思いますが」
外れたのかもしれないですね、テキパキと帰る準備をしていた椿ちゃんも動きを止めて、窓の向こう側を見ている。

「まあ、そんなこともあるんじゃない?」
ふふ、と笑みを浮かべながら一カ所だけ開いていた窓を閉めた。
晴れと言われたら雨粒が落ち、雨と言われれば綺麗さっぱり晴れてみたり、毎日じゃないとは言え天気はよくわからない。


感心なことに、折り畳み傘を常時携帯しているという椿ちゃん、デージーちゃんと、携帯で迎えに来てほしいと連絡をしていたミモリンは先に帰り、何故かオレと安形だけが生徒会室に残った。残ったというか、「ミチルは残れよ?」有無を言わせぬ笑顔で強制的に残されたと言うのが正しいかもしれない。
いつまで経っても逸れようとしない安形の視線に耐え切れず、とうとう声を出してしまった。

「あの…安形さん、もうオレ帰っていいですかね」
「おほっ、じゃあ帰るか」
「え、あ、一緒に帰るんだ」
「なんだ、いつものことじゃねえか」
てっきり用事か何かあるのかと思っていたオレは、鞄を手に取った安形を呆然と見つめる。
ほれ、と当たり前のように俺に手を差し出すのを見て 首を傾げながら自分のそれを重ねた。
今やもう人気のない廊下を二人で歩幅を合わせて歩く。
誰かに見つかったらとか、そうゆう概念は存在しなかった

「安形、傘持ってきてるの?」
「や、持ってない」
「あぁそうですか」
靴を玄関のタイルに置いて、片方ずつ履いていく。
鞄の中を探ってみると、折り畳み傘を発見。よくやったオレ!とりあえず自分を褒めたくなった。

「ミチルは?」
「ふっふっふ…………、じゃあーん、傘発見!」
深い青の小さめのそれを突き出し、したり顔で顎を上げる。バサバサ、と音をたててそれを開いた。

「おぉ、よくやったミチル。行くか」
「え?わ…」
強引に腕を引かれ、足が縺れる
慌てて傘をかざすと、次は肩を抱かれていた。その傘が不意に安形の手に渡る。なんだよ、と少し顔を傾けて軽く睨んだ。
そこには、不敵に笑う安形がいて

「相合い傘っていいよなぁ」
「な…っ」
暗がりの中、思わず温度が上がった顔を隠したくて ぐいぐいと安形を押しやる。

「かっかっか、ミチル そんなに傘から出たら濡れるぞ」
引きはがそうと腕をかけてみても、再度強く引き寄せられれば突っぱねていた肘は使い物にならなくなった。

「…こんなの、恋人だって言ってるようなもんだ、すごい恥ずかしい」
「れっきとした恋人じゃねえか」
「う……まあ、そうだけど」
そう言って俯くと、拘束されていた肩が解放され また手を握られる。
頭を小さく掻きながら、握り返した手に滲んだ汗に気付かれてないだろうかとそればかりがひたすら気になっていた。


end




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