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「ミチルー」
放課後の活動に向けて生徒会室に続く道を歩いていた。窓から見える深緑はさわさわと揺れていて、気持ちのいい風が吹いているのは安易に推測できる。

廊下の床とゴム製の靴底が擦れ合い、軽快な音をたてた。


さやかなる嫉妬


オレの名前を呼んだ人物を特定するのは、振り返らなくても声だけで十分で。
遠くから聞こえてる足跡は、確実に近付いてきた。
それに伴って、何かのボルテージがちょっとずつ上がっていく気がする。

「安形」
振り返ると片手を上げた安形がいて、脳天気に欠伸をかいていた。

「生徒会室行くのか?」
「もちろんだよ。安形もだろ?」
「ああ、まあな。なんだったら屋上で下校時刻まで寝過ごしたかったぜ」
「椿ちゃんに怒られるよ」
「はは」
そんな他愛もない会話をしながら生徒会室に到着する。
まだ現れない二年生団を待って、対して必要もない話をぽつりぽつりと水滴が一粒ずつ落ちるように交わしていた。


「椿ちゃん達来ないね」
「掃除か何かじゃねえの」
「かな」



「…それより、ミチル」
「ん?」
それまでは少し怠そうな喋り方だったのに、いきなり真剣な雰囲気で話し掛けてきたものだから何事かと思い 本に向けていた視線を上げる。
見上げた顔も真剣で、戸惑ってしまった。

「今日、告白された?」
安形の口から出たのは、簡単な質問。なんで今日に限ってそんなことを聞いてくるのかイマイチわからないまま、こくりと首を縦にふる。

「A組の女の子に…あ、A組って安形のクラスだよね。クラスメート?」
「まあな。榛葉くんて彼女いるのかなー、いないんじゃねーの、告白しても大丈夫かなー、大丈夫なんじゃねーの、みたいなノリで」
「なに適当な感じで背中押しちゃってんのさ。いや、断ったよ?丁重に」

赤い顔する女の子は可愛いねと含み笑いを向ければ、安形があからさまに不機嫌な気配を醸し出し始めた。

「…なに?」
「いや…適当なこと言ってお前んとこに行かせるんじゃなかったなあと」
「…?」
両手を組み合わせ、生徒会長特有の大きな椅子の背もたれに体を委ねながら安形は言う。
掴み所のないそれに、頭の上は疑問符だらけだ。一拍置いて、その男は補足するようにように口を開いた。

「なんか、妬けるな」
かっかっか、と笑い飛ばしている生徒会長を余所に オレの顔は瞬く間に熱を蓄えていく。
体中が熱くなるまでにそう時間はかからなかった。

「…そ、れって」

「すみません、遅くなりました」
今のはどういう意味かと問いただそうとする前に、扉が勢いよく開いて二年生が顔を揃えて現れる。
遅れた理由を話そうとした椿ちゃんの声は安形のそれで遮られ、早くいろいろ進めてくれよと安形のくせに次にしなければならないことを促した。

壁に掛けている時計を見れば、針はもう16時を指していて。

「では、定例会議を始めます。何か報告事項があれば――」


できる限り音を立てないように、机に突っ伏す。
ゆっくりと動き出す時間が更に遅く感じて、普段通りの距離感で話す椿ちゃん達の声が妙に遠く聞こえた。
しばらくそんな調子で会議に参加してれば、副会長さんに文句を言われるのも無理はないかもしれない。


end


二人の距離、上手く表せていたでしょうか´`
付き合ってはいないけど、お互いアレだよねみたいなことです←




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