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「ねぇ、どっちがいいと思う?」
メンズファッションが取り揃えてある店の中で、いつも通りのキラキラ王子スマイルを張り付けて振り返ったミチル。
両手には二種類の服があって、今の質問の意図は そのどちらかを選べということだろう。

可愛い恋人の頼みだと、二つの服を見比べてみた。


りたいもの


「…どっちも大差なくねぇか?」
顎に手をあてて見比べても、どちらも特に長けている所は見当たらず、逆に至らない所もない気がする。
どっちでもいいんじゃ、と何の気無しに言うと

「…うわー、ツレないなあオレの彼氏さんは」
なんて小さな声で呟いてから、俺を一睨み。…まあ、痛くも痒くもないけど。
一睨みの後、元の位置に目を向け直してもう一度あれやこれやと悩み出した。

「ミチルは基本何着ても似合いそうだけどなァ」
すると、間延びした語尾に反抗するようにミチルが口を開く。

「まあそうなんだけどね、それじゃダメなんだよ。あ、これとかどう?」
あ、肯定するんだそこ、そう言って口角を上げて見れば 服を体にあてているミチルも、にっと歯を見せて笑った。

「いいんじゃねぇ?」
「ふふ、本当?面倒臭いからって適当に言わないでよ?」
「まじまじ」
それは、冗談抜きでミチルにピッタリのデザインで、なかなかのオレ好みだ。


「よーし、じゃあその調子でどんどん言ってってよ」
「…それはめんどくせぇな」
「なんで!?」
「んー…ミチルの好きなの選べば?」
「だめだめ」
「それこそなんでだよ」



「…どうせ買うなら、好きな人が好むような服買いたいじゃん」



しばらく、沈黙が漂う。
唐突に放たれたミチルの言葉に、立ち尽くすことしかできないオレ。
それに気がついたのか、ハッとなってこっちに顔を向けた。

「あ、や、あの…な、んちゃって」
顔を真っ赤にして口端を引き攣らせてから、軽くはにかむ。
それがもう…可愛すぎて



思わず、キスをしていた。



「…………、えぇ…?」

「…わりぃ、我慢効かなかった」


てっきり、公共の場だということを忘れて。

「…ありえねー……」
更に顔を火照らせたミチルを見て、一回でもいいから抱きしめたくなるが ややこしいことになったら困るので、さっきは制御しきれなかった理性を辛うじて押し止める。


「…オレは、どんなミチルでも好きだけど」
「……そりゃどーも」
くしゃくしゃと頭を撫で回して言えば、赤面したまま俯いたミチル。
またキスをしたくなって困った。


end

(つまりはあなた好みの人に)
(なりたいわけで)




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