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「安形!」
雪がうっすらとコンクリートを覆い、頭上には自然の光源が輝く昼下がり。遠くから焦る様子もなくこちらへのそのそと歩いて来る待ち人を大きな声で呼んだ。

「よー。待ったか?」
「……待ったよ」
「…そこは"ううん、今来たところ"をハート付きで言うもんだろ」
「30分も待たされてみろ、そんなこと一切言えないから!」
「そんなぴーぴーぴーぴー言うなって」
「くっそ…、今度オレも思いっきり待ち合わせに遅刻してきてやるんだからな!」
人差し指を突き立てて得意げに宣言して見せる。

「できるもんなら」

そう言って笑った安形に手を取られ、べろりと平を舐められる。
同時に悲鳴を上げたオレが繰り出した拳が、見事に目の前の顔面にクリーンヒットしてくれた。


ある休日


「……いきなり顔面殴ってくるとは、いい根性してんなあ」
「安形が急にあんなことするからだろ」
「あれは挨拶代わりだ」
「外国人か」
いや、外国人でもあんなことしない!安形の隣を歩きながら周りの迷惑にならない程度にそう言えば、オレのほうを見ていたそいつが楽しそうに笑う。
特に何の予定もない今日は、とりあえず待ち合わせをしてとりあえず街に繰り出そうというオレの粋な計らいでぐるりと一周して予定ができた。

どこに行こうか、なんてのは決めていない。二人で並んで歩ければ、それで十分だと思った。

「あー……さみいなー」
もうちょっとあったかい日すればよかったな、と肩を竦めて安形が言う。マフラーを巻いているオレと違って首がさらけ出され、そこから熱が逃げていくのだろう。

「マフラー貸そうか?」
「いらん」
白い息と共に左手を出し、否定の意を表する。何か他にとポケットを探ってみると、温かい物が潰れてそこに存在した。

「安形、カイロあるよカイロ」
「むぐ、」
微笑みながらぐりぐりと安形の頬にそれを押し当ててやれば、不意打ちに構えることが出来なかったのか小さな呻き声が聞こえた。
ふは、とその声に吐息が漏れる。骨張った安形の手に自分のそれを重ねてカイロを手渡すと、さんきゅーと耳のすぐ近くから声が降ってきた。

「大分あったけえわ」
「よかった」
両手でカイロを挟みながら軽く揉み、暖を求める。そんな安形を尻目にポケットに手を突っ込んで息を吐き、空を仰いだ。
遥か向こう側に、雲なのか空の一部なのかわからない限りなく白に近い水色が広がる。そこからグラデーションのように濃くなって広がっていく青は、凄く綺麗だ。

「ミチル、手ぇ寒い」
「カイロあげたじゃないか」
「寒いったら寒いんだよ」
しばらく空を見ながら歩いていると、安形と歩幅が合わず少しだけ遅れてしまった。振り返った安形に手を差し延べられ、どうしたものかと少し戸惑う。
暗に手を繋ごうと伝えたかったらしい安形は、痺れを切らして半ば強引にオレの手を取った。

「恥ずかしいんだけど」
「ミチルは自意識過剰なんだよ。誰も見ねぇって」
「いや、オレかっこいいから目立っちゃう」
かくっ、と肩を極端に下げお笑い芸人がよくやるような仕草を真似て見せた安形。

「お前なら言うと思った」


なんて笑いながら言うそいつに、どこに行こうかと首を傾げて聞いてみた。


end


二人がこんな感じで街中歩いてたら私は卒倒します。




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